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【家族 その他小説】

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「…姉ちゃん…?」

姉ちゃんがいない。

「姉ちゃんっ!?」

俺は駆けだした。
その細長いものはしっかり右手に握っているが、それを確認する余裕は無い。
時折躓いて転びそうになるが、もがくように体勢を立て直して姉ちゃんの姿を探した。

「姉ちゃんっ!姉ちゃんっ!姉ちゃんっっ!!」

俺は無我夢中で走った。
闇雲に、どこへ向かっているかも分からない。
3年前、姉ちゃんは殺された。
ここの林に連れ込まれ、レイプされ、そのまま首を絞められたそうだ。
当時中2だった俺はそんなこと知りたくなかったし、知らされたくなかった。
姉ちゃんは17歳だった。
女ジャイアンの姉ちゃん。
女王様姉ちゃん。
犯人はすぐに捕まったが、そんな姉ちゃんがいなくなったことは、俺を引きこもらせるには充分な理由だった。

「姉ちゃん!?どこだよ!!」

怒りでは無かったと思う。
ただただ何も考えたくなくて、どこまでも虚無感が続いて、虚しかった。
何もかもどうでもよくなった。
同時に自分がどれだけ姉ちゃんを大切に感じていたかを思い知らされた。
まるで心の一部が削ぎ落とされたようだった。
姉ちゃんの笑った顔が頭に浮かぶ度、涙を一つ零す。
今日まで俺はそういう風に意味なく生きてきた。

「姉ちゃんっ!俺寂しかった、悲しかった!何で今更出て来たんだよ!今まで何やってたんだよっ!」

姉ちゃんの辛さや痛みなんて俺にはこれっぽっちも分からない。
だけど、俺が今味わってる痛みがこれっぽっち程度なんだとは思う。
姉ちゃんは殺された。怖い思いをして、未来を奪われた。
それはどれだけ痛くて、辛くて、悔しいことか。
なのに、そんな姉ちゃんが3年経って当たり前みたいに帰ってきて、俺を簡単に外へ連れ出して、昔と同じように笑っている。

「なあっ、姉ちゃ………!」

急に視界が開けた。
目の前に広がる草原と灰色の空。
そしてその灰色のキャンパスには、七色に輝く鮮やかで大きな虹が掛かっていた。
俺は目を見開く。
灰色だから、その虹は更に輝きを増して美しく見えた。
先ほどまでの殺伐とした気持ちは無くなり、時間がゆったり流れている気がした。

「……綺麗だな」

溜め息と共にポロッと涙が一粒落ちていく。

『姉ちゃん、虹大好き!』

さっきの姉ちゃんの言葉が頭の中で響いた。
堅く握っていた右手をゆっくりと開いていく。
それは姉ちゃんがいつも身につけていた虹のネックレスだった。チェーンが千切れ、錆びて土だらけのチャーム。
俺はそっと土をはたくと、また強く握り締めた。

「俺も虹大好きだ」

虹は大きく雄大で、俺には笑っているように見えた。



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