破戒-3
「隆一さんに喜んでもらいたくて・・・・
破廉恥な娘だと思いますか?」
隆一は、絵里を抱きしめると、舌を絡める濃厚なキスをした。
絵里を求める隆一の気持ちが伝わってくる。絵里の中から不安は消え去り、隆一への思いが燃え上がる。
「絵里。恥ずかしかったろう?
僕を喜ばせようとして、頑張ったんだね?
嬉しいよ。」
絵里が、隆一の腕の中で甘える。隆一は、絵里の背中を優しく撫でながら話し始めた。
「絵里。聞いて欲しい。
ヴェニスに来たのはね、絵里をより魅力的な女性にするためなんだ。
絵里もより魅力的な女性になって、もっともっと僕に愛されたいと思わないかい?」
絵里は、隆一の言葉に興奮を覚えずにいられなかった。
何かが始まる。
隆一の言葉の先には、絵里の知らない刺激的な大人の世界が広がっているのだ。それは、目眩がするほど恥ずかしく、また、それを忘れさせるほど甘美なものだった。そして、それを受け入れることが、隆一の愛を獲得する唯一の方法であることを絵里は知っていた。絵里は、隆一を真直ぐに見つめると静かに答えた。
「隆一さんに愛されたい。その為ならどんなことでもします。」
「そう。そんな絵里が可愛いよ・・・・・
君も知っている通り、ヴェニスは中世、世界の中でも最も繁栄を極めた都市だった。
毎日のように開かれる舞踏会で、貴族たちが自由に恋愛を楽しめるように、仮面を作ったことも知っていると思う。貴族たちは、自分をより美しく魅せるため、大金を出して、美しく優雅な仮面を作らせたんだ。その中で、恐るべき仮面が作りだされた。
それが、今日、買い求めた仮面なんだ。」
その仮面は、ベッドの枕元においてあった。
「その仮面を、手に取ってごらん。
美しいだけじゃなく、妖艶な光を放っているはずだ。
絵里が選んだその仮面は、娼婦の仮面だ。」
「娼婦の仮面ですか?」
「そうだ。
香水がついているだろう。
その香水を一滴、仮面に垂らして顔に当ててごらん。
しばらくして仮面を外すと、君は娼婦になっている。」
「私が、娼婦に?」
「そうだよ。本当に、そうするわけじゃない。
僕を相手に疑似体験をしてみるんだ。」
覚悟はしていた。しかし、隆一の言葉は、絵里の想像を遥かに超えていた。なんて仮面を選んでしまったの。仮面を被ることで別の人格になってしまう、それも娼婦になるのだ。絵里は、怖かった。しかし、隆一は、そのために絵里をヴェニスに連れて来たのだ。隆一さんは悪いようにはしない。隆一さんを信じて頑張るのよ。絵里は一生懸命、自分にそう言い聞かせていた。