【イムラヴァ:一部】十一章:The Point of No Return.-7
「なんだ、あの化け物は……!」
「ア…ラン?」その大きな陰は言った。「アラン?」
「おまえなのか……」アランはつぶやいた。抱き続けた疑問の答えが、今まさに、目の前に現れたのだ。高貴な翼を広げ、がっしりとした前肢で木の枝を掴んでいる。日の光を浴びて光る巨体は、まるで太陽そのものを背負っているかのように見えた。
それは、鷲の頭と前肢と翼に、獅子の体を持つ、大きな獣だった。
「お前なのか!あの卵に宿っていたのは……!」
アランの顔に笑顔が広がった。その獣は、甲高い声で啼くと、アランの前に立つ男達を翼の風圧で蹴散らしてからふわりと地面に降り立った。彼女の胸に頭をこすりつけて、ごろごろとのどを鳴らした。
「よくここがわかったな」アランは、熱烈な抱擁に押されてよろめきながら、愛おしげに言った。「顔も見たことがないっていうのに!」
彼はうれしそうに、そして誇らしげに啼いた。周りの男達は、アランが再び顔を上げる前に、悲鳴を上げながら遁走していた。その場に残ったのは、信じられないほど冷静な顔つきで彼女を見つめるウィリアムただ一人だった。
「アラン……」
「ウィリアム。すまない……でも、私はもう、あの城には戻らない」
ウィリアムはうなずいた。
「わかっていたよ。君が僕のそばから居なくなることは」そして、アランの背後に目をやった。一体何事かと様子を見にきたクラナド達が、大きな獣の姿を見て目を丸くしていた。ウィリアムは、一歩彼らに近づいた。すると、クラナドはまだ残って4板兵士の存在に気付いて、おびえて後ずさった。彼は、自分の服に付いた血を見てから、あきらめたように彼らに言った。
「あなた方には、申し訳ないことをした……アランは、あなた方に託します」ウィリアムは、そう言うと自分の馬に乗り、アランを見た。
「さよなら」
アランはうなずいた。「お父上と、城のみんなに宜しく」ウィリアムはふっと笑って、言った。
「みんなには……君が死んだと伝えておく」そして、馬に拍車をかけ、振り返らずに行ってしまった。
「さよなら」
――もう戻れないところまで来てしまった。先に進む以外に道はない。
アランは振り返り、笑顔を向けた。
「行こう」
さようなら 私の美しい鷹
落日燃ゆ 西の空に
さようなら 私の愛しい鷹
風は凪いだ もうお行き
黄金は銀に 生は死に
歌は静寂に 太陽は落ち
夜は来つ 我が枕べに雨の降る