このかけがえのない世界へ6-1
夜。
月や星が眩しいくらいに瞬いている中、森の外れにある、一軒の家の前に二人の旅人がいた。
一人はやや背の高い黒髪の若い人だった。
精悍な顔つきで左目には黒い眼帯をしている。
黒くて長いコートを身に纏い、腰にはホルスターが見えている。
もう一人はやや背の低い茶髪の少女だった。
まだ幼さが抜けておらず丸い小さめの眼鏡をかけている。
服は女の子らしい可愛らしい着ていた。
眼帯の人が扉をノックすると中から40代くらいの男性が出てきた。
「夜分遅くにすみません。
私たちは旅の者なのですが、実は道に迷ってしまいまして……今晩泊めていただけないでしょうか?」
「そうですか。それはお気の毒に。
…少し待っていてください」
男は一旦扉を閉めると中から相談しているらしい話し声がしばらく聞こえ、そして、
「さぁ、何もない、つまらない家ですが、どうぞお上がりください」
と、二人を家の中へ招き入れた。
家はさほど大きくない、木造のログハウスのような家であった。
二人は男にリビングらしい所へ連れて行かれると、男の家族が五人、テーブルについて待っていた。
男と同い年くらいの妻に10歳前後の兄妹、それに白髪頭の老夫婦であった。
眼帯の人と少女は、まず礼を述べて、お礼にと旅の話をしてあげることとなった。
特に兄妹二人は旅の話に興味津々で眼帯の人がする話に目を輝かせながら聞いていた。
途中、奥さんが気をきかして手料理を振る舞ってくれた。
豪華とまではいかないものの、大勢で食べる料理は大変美味しく、眼帯の人も上機嫌で旅の話をおもしろおかしく語った。
「それで、それで?
それからどーしたの??」
「その悪者たちと闘ったの??」
男の子とその妹がテーブルから身を乗り出して話を催促する。
「二人とも、もう寝ないといけませんよ」
キッチンから片付けを終えた奥さんがやって来た。
リビングにいるのは兄妹と旅人二人、そして奥さんの五人になっていた。
老夫婦と男はもうすでに自室で休んでいるらしい。
「えぇー! まだ話し聞きたいよー」
「続きも気になるもん!」
「そんな聞き分けのないこと言って…旅人さんだって疲れているのだから、今日はもう寝なさい」
奥さんはちらっと眼帯の人の隣りで寝ている少女を見た。
兄妹はそれでも何か言いたそうな感じであったが、やがて諦めたように頷いた。
「旅人さん、おやすみなさい」
「また明日、続きを聞かしてねー」
「分かった。続きは明日しよう。
…二人とも良い夢を」
眼帯の人が答えると兄妹はニコニコとリビングを後にした。