このかけがえのない世界へ6-6
「その通りです。
敵をとると決めたものの、私たちにそのようなことは出来ませんでした。
そんなことを自らしては、正義と平和、非暴力を貫いてきた祖先たちの輝かしい歴史に泥を塗ることになってしまう…。
そこで私たちはこの街を訪れる旅人たちにレガ族の一家を一軒だけ皆殺しにしてほしいと依頼することにしたのです。
幸いにもこの街は経済的に発展していますので、報酬も惜しみ無く出来ました。
私たちはこの方法によって、直接手をくださずにレガ族の大半を減らすことに成功しました。
そしてあなた方が殺害したレガ族の一家があの地区に住む最後のレガ族でした。
残すは森の中に散らばったレガ族だけで、私たちは祖先が住んでいた地を取り返すことが出来たのです!!」
「それは良かったですね」
「旅人さん…最後に一つお願いがあります」
男は席を立った。
「なんですか?」
「私、さっき言いましたよね?
我らコーザ族は正義を重んじる民族だと」
「ええ」
「私たちは人殺しを極悪と考えます。
そして先祖代々、人殺しを見つけたら、ある掟に従ってきました」
そう言うやいなや、二人は入口から雪崩のように入ってきた十数人ほどの男たちにあっと言う間に取り囲まれた。
彼らは手に剣や槍を握っていた。
「見つけ次第、容赦なく殺せ、と」
それが合図となって男たちは一斉に二人へと襲いかかった………
重い鉄の扉がゆっくりと開いた。
「あれ? どうなさったのですか、旅人さん。
何か忘れ物でも?」
相変わらずカウンターに座っていた妙齢の女性が尋ねた。
「ちょっと、渡し忘れたものがありまして」
眼帯の人は腰に提げた袋をカウンターに置いた。
女がその中を覗くと十数個の右耳が入っていた。
「凄いですね。こんなにレガ族を殺した人たちは初めてですよ」
女はその袋をカウンターの下にしまい、代わりに右耳の数と同じ数の小さな袋をカウンターに置いた。
「…レガ族かどうか確かめないのですか?」
「確かめるまでもありません。
あの袋の右耳は特に異臭を放っていました。
レガ族で間違いありません」
彼女は嫌そうな目で、また同じようにタオルで指を拭いていた。