このかけがえのない世界へ6-5
酒場に戻ると一人の若いスーツ姿の男が座っていた。
酒場には、客はおろか、店員さえもおらず、あたかもその男が人払いをしたかのようであった。
「待っていましたよ、旅人さん。
どうです。
一緒にお酒でも飲みませんか?」
「さて、まずあなた方には話さなければならないことがあります」
男が座っているテーブルを挟んで反対側に二人は座っていた。
「私たちにレガ族の一家を殺させた理由ですか?」
眼帯の人はブラックコーヒーを飲み、答えた。
それを見て、アルも出されたオレンジジュースを飲んだ。
「鋭いですね。
そうです。そのことについてです」
男もウィスキーを飲んで答える。
「遥か昔、私たちコーザ族の祖先は森の外れで平和に暮らしていました。
旅人さんたちがあの一家を殺害した、ちょうどあの辺りです。
その頃は、まだ狩猟や採取を中心とした生活で、決して裕福ではありませんでしたが、それでも仲間たちと充実した日々を過ごしていたそうです」
男は空になったコップにウィスキーを注いだ。
「しかし、そんな日常も長くは続きませんでした。
奴等が、レガ族がやって来たのです。
その頃のレガ族は安息の地を求めて大陸を彷徨っていました。
そして奴等は私たちの土地に着くやいなや、コーザ族に対して無差別に殺戮や強盗を働きました。
我々コーザ族は正義と平和を重んじ、争いを好まない民族ですから、戦うまでもなく、多くの仲間が殺され、女は汚れた奴等にことごとく犯されました。
コーザ族を追い払ったレガ族は私たちの土地に何の躊躇いもなく定住したのです。
それでも何とか生き残った我々の祖先は今のこの地に隠れ住みました。
奴等が追っ手を出さなかったのがせめてもの救いだったかもしれません。
そして誓ったのです。
いつの日か、仲間の敵をとろうと」
男はコップに入っているウィスキーを一気に飲み干した。
「それから、何百年もの歳月が過ぎました。
奴等はまだ、何の変化もなく、のうのうとあの地で暮らしています。
それに比べて我らコーザ族はどうです!
何もない所から土地を開墾し、懸命に働き、学問を学び、そしてこの素晴らしい街を造ったのです。
文明や人口など最早どの点においてもコーザ族はレガ族を上回っているのです!
…しかし、時とは無常なものでした。
時が経つにつれて仲間の敵をとろうという、あの誓いは我々の記憶から消えていました。
今ではほとんどの人がその誓いのことなど、全く知らないでしょう。
だが、私のように知っている者もいました。
だから、その者たちを集めて秘密裏に敵をとることにしたのです」
「それで私たちを雇った、と?」