このかけがえのない世界へ6-4
朝日を浴びた石畳の大通りは、活気に溢れていた。
仕事場に行く人や子ども連れ、路肩には幾つもある露店からの売り子の声やギターを弾き語る陽気な歌など、様々なものが見え、そして聞こえてくる。
立ち並ぶ家々は、そのほとんどが古びたレンガ造りの家で何処となく哀愁を漂わせていた。
そんな街の大通りから一本、道を外したところにある、薄暗く狭い裏路地に二人の旅人はいた。
二人はまるで我が家に帰るかのように複雑な裏路地を進み、一軒の酒場に入った。
酒場の中は裏路地より暗くて陰気だった。
さらに二人は地下への階段を降りる。
すると鉄の扉の前に二人の屈強そうな男が立っていた。
「許可書を」
一人の男が低い声で言うと眼帯の人は懐から取り出した紙切れを見せた。
それを確認して、もう一人の男が扉を開けた。
中は十人入れるか入れないか、ぐらいのスペースにカウンターのようなものがついてあって、そこにスーツ姿の妙齢の女性が座っていた。
「おはようございます、旅人さん」
彼女は微笑み、挨拶をしてきたが、眼帯の人は何も答えずに袋をカウンターの上に置いた。
「五人分です」
「五人分ですね。
それでは確認させていただきます」
女はその袋から血まみれの右耳を取り出し、一つひとつ確認していく。
全て確認し終えると、五つの右耳がはいった袋をカウンターの下にしまい、代わりに五つの小さな袋をカウンターに置いた。
「五つの右耳は依頼通り、レガ族のものでした。
よって金貨五袋と交換いたします」
眼帯の人は、さっきの彼女のように一つひとつ袋の中身を確認して、金貨を懐にしまった。
「確かにいただきました。
私たちは今日でこの街から離れようと考えているのですが…最後に一ついいですか?」
「はい、なんでしょう」
「レガ族の右耳は視認できるものなのですか?
私には、どうも私たちと何ら変わりない、同じような耳にしか思えないのですが……」
「確かに普通の人であれば、見分けがつかないことでしょう。
しかし、私たちコーザ族には分かるのです!
奴等の汚らわしい肌が、右耳からの吐き気を催すようなこの異臭が!!」
女は置いてあったタオルで右耳に触れた指を懸命に拭いていた。
「まだ取れない…臭いが取れない……っ!!」
半ば発狂したように何度も何度も指にタオルを擦り付けている。
よく見れば彼女の手は擦り傷だらけだった。
「…失礼します」
眼帯の人はそう言って、アルと一緒に部屋を出た。