このかけがえのない世界へ6-3
眼帯の人はそばまで近寄ると懐からナイフを取り出し、彼らの胸を正確に刺した。
老夫婦は悲痛の叫びを上げるまでもなく、心臓を一突きされた。
二人を殺すのに十秒もかからなかった。
眼帯の人は死んだのを確認すると二人の右耳をナイフで削ぎ落とし、腰に提げている袋にしまった。
さらに隣りの部屋へ行くと、一つのベッドに兄妹が仲良く眠っていた。
兄妹の寝顔は穏やかで、時折笑うように微笑むのは楽しい夢を見ているからであろうか。
眼帯の人は老夫婦同様、兄妹を素早く殺し、二人の耳を袋にしまった。
「ぁ…あぁ………!!」
何かが落ちる物音とともに情けない声が背後から聞こえた。
振り返ると奥さんが腰を抜かしている。
眼帯の人はゆっくりと彼女に近寄った。
「どうして……どうしてぇっ……!!」
奥さんは腰を抜かしたまま、廊下へと後退る。
「どうして?
人が生きるために人を殺すのは常識ですよ」
眼帯の人は立ち止まると、後退る奥さんに向けて短銃を構えた。
「ひぃぐっ………や、やめ」
「ご飯、美味しかったです」
パンッという小気味良い音が家中に響き渡った。
「女は始末したの?」
アルが階段を降りてきた。
「あぁ。
…男の方は?」
「ん」
アルが眼帯の人の方に、血だらけの右耳を摘んだ手を出した。
「ご苦労様、アル」
眼帯の人はニッコリ笑うと奥さんの右耳を削ぎ落とし、男の右耳とともに袋に入れた。
「よし、じゃあ行こうか」
二人は血まみれの手を綺麗に洗い流して、家の外へ出た。
月はまだ十分に高かった。