このかけがえのない世界へ6-2
「すみません。うちの子たちが無理を言って…疲れていらしたのに」
「いえ。大丈夫ですよ。
私もこの子も楽しんでいましたし」
そう言って眼帯の人はテーブルに突っ伏して熟睡している少女の頭を撫でた。
「ふふっ、そうですか。
私も旅人さんの話に、思わず子供の頃のように夢中になってしまいましたわ。
旅人さんもお疲れになりましたでしょう。
二人のお部屋は廊下の突き当たりを右に行った正面のお部屋ですので、どうぞ旅の疲れを癒してください」
「分かりました。ありがとうございます」
「粗末な部屋ですが、ゆっくりしていってくださいね。
では、おやすみなさい」
「はい、また明日」
眼帯の人は寝ている少女を背負ってリビングを後にした。
二人の部屋は非常に簡素なものだった。
大きめのベッドが一つと小さい机が一つあり、窓からは月明かりが零れていた。
眼帯の人は少女を起こさないようにベッドに寝かせると、窓を少し開けて窓際にあったイスに腰掛けた。
少しひんやりとした風が眼帯の人の髪を撫でる。
眼帯の人は腰の辺りに手を置き、短銃があることを確かめて目を瞑った。
月が西に傾き始めた頃。
眼帯の人はイスから立ち上がってベッドに寝ている少女の身体を揺すった。
「アル、起きて。
そろそろだよ」
アルと呼ばれた少女はベッドから上半身を起こしたが、まだ眠たそうにぼーっとしている。
「まだ寝足りないの?」
「…うん」
アルは短く頷いた。
少し支度をして、二人一緒に静かに部屋を出た。
「一階は私が、アルは二階を頼む」
「分かった」
そう言って、二人は別れ、なるべく足音のたてないように歩き始めた。
眼帯の人は、まず隣りの部屋の扉を静かに開けた。
中にはベッドが二つあり、老夫婦がそれぞれ寝ていた。