あべ☆ちほ-5
「大丈夫です。衣食住があれば勝手に育ちます。シーモンキーみたいに」
「あたし、責任って二文字が一番嫌いなのよ。デキたって責任を問う前に避妊をキチンとすればいいと思わない?」
「思春期少年相手にいきなりエロトーク!!すげえよ、ミヨさん!」
「ま、いいわ。よろしく。あたしは、死ぬ気ないから」
「僕だって殺す気なんかちっともないですよ?」
とまあ、そんな会話があった。
さて。
ミヨさんは忙しい人で家とは別に仕事場に部屋を持っているので全然会うことがない。
それが功を推しているのか、今のところミヨさんは死んでない。
僕も僕で、その後は人が死ぬところを見ないまま普通の高校生となった。
そして高校入学から半年後。クラスメイトの一人が重病で入院した、との報せを担任がHRで言った。
久しぶりだな。素直にそう思った。
それで今度はどんな人が死んでしまうのか、それを見に行こうと思った。
*
秋が深かった。
暮れなずむ夕日と舞い散る紅葉の中、県の総合病院は巨大で真っ白で清潔さよりも先に神経質さが目についた。
僕は405号室を目指していた。
阿部千穂。
その生徒は4文字の漢字に4つの音を含ませた、癖になる響きの名前だった。
女子高生のユルい日常を綴ったほのぼの4コマ漫画みたいだ。
『あべ☆ちほ』
僕は同じクラスにいながらも彼女のことをほとんど知らなかった。
知っているのは名前とクラスと出席番号と病室の番号だけだ。というか、これも今日知ったんだけど。
どう入るべきか?
神経質な廊下を歩きながら僕は思いあぐねていた。
顔もちゃんと知らないようなクラスメイトにお見舞いもクソもあったもんじゃない。ってのは、まあ当然としても、「死ぬのか興味があって見に来ました」なんて言った日には裁判沙汰になるかもしれない。
「病院って4とかの数字を嫌うから下一桁が4の号室ってないじゃん?だからさ、405号室ってのは結局のところ404号室ってことだよね?死のナンバーだ。すごくない?」
極刑モノだ。
と、考えるのも束の間。
405号室のドアは最初から開け放たれていた。
そして――、
ある種の感動がそこにあった。