あべ☆ちほ-28
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冬休みの終わりの日の話。
廊下で電話の対応から戻ると、珍しく仕事が休みのミヨさんが居間でごろごろしていた。具体的には面白くもなんともない正月番組を横目にコタツで僕が作った雑煮を食べたりしていた。
ので僕は対話を試みることにした。
「ミヨさんさぁ、聞きたいことあるんだけどいい?」
むー?噛み切れない餅を伸ばしながら唸るように顔を上げるミヨさん。こどもおとなだ。四苦八苦してどうにか餅を飲み込んで一言。
「味が薄い」
「濃く作り直せと?」
「いんや、今のは忌憚なき意見。次からの参考にするように」
雇用主がアルバイトに言うみたいな上からの意見。ミヨさんのデフォルトの発言形式である。次は醤油一升入れたるわい!とか思いながらも恭しく頭を下げる僕である。
「んで?」
お腹が満ちて眠くなったのかコタツに頭を乗せてミヨさんは言う。
「んで、とは?」
「なんか聞きたいことがあるんじゃなかった?」
「そうそう。雑煮の話なんかどうでもよいのでした。えーっと、あの……あ、なんか結構照れるな」
ミヨさんの目がスゥっと細められる。あれは「うぜー」という目だ。
「うぜー」
口にまで出された。
けどそんなのは慣れたものである。僕は心ゆくまでもじもじしてから言った。
「えっと、若き一少年の青春の一ページだと思ってもらえればいいんだけど……、ミヨさんてどうして僕のこと引き取ったの?」
………ぷ。
たっぷり5秒、沈黙してからミヨさんは噴き出すように笑い出した。
「いや、絶対笑うと思ってたけど」
そこまで豪快に行くとは。
ミヨさんは笑って笑ってお腹を抱えてテーブルを叩いて目尻に溜めた涙を手で拭ったあとで、
「で?なんだっけ?」
「もういいっス。ミヨさんみたいな悪い大人を煮しめたような人にこんなこと聞いたのが間違いだったっス」
「なんだよ、いじけんなよ。あたしが悪いことしたみたいじゃん」
したんだよ!とは言わず食器をかたす作業に入る僕である。おっとな〜。