あべ☆ちほ-26
「こんな大晦日にまで会いに来てくれるなんて恋人冥利に尽きますな」
へへ、と千穂は冗談めかして笑う。その姿をかわいいと思う。好きだと思う。愛しいと思う。いっそ自分でと―――思う?本当に?
「千穂、部屋を暗くしていい?少し話そう」
「うぇ?いいけど…なになに?ピロートーク?」
千穂から許可をもらって僕は部屋の電気を消した。総合病院の希望が一つ潰えた。
部屋の中の光源は薄い月明かりと、千穂に繋がってる大きな機械の黄緑のランプだけになった。僕はパイプいすを千穂の枕元まで持っていって腰掛けた。
「ちょっと面倒な話になるけど、いいかな?」
「うん。ちょうど面倒な話が聞きたかったんだ」
千穂はずずず、とベッドの上でひざを抱えて丸くなる。窓からの逆光で千穂はベッドの上の山影の一つになる。
僕は頭の中で言うべきことと言いたいことをぐるりと見渡してみた。どちらもいくらでもあった。一晩じゃ伝えきれないほど。
「僕はね、実は死神なんだ。ってのがこの話のプロローグなんだけど、どう?退屈そう?」
「電撃文庫だったら読まないかもね。でも君の話だもん。聞くよ」
「ありがとう」
*
僕はね、実は死神なんだ。もう何人もの命を奪ってきてる。父も母も容赦なく、好きも嫌いも区別なくね。
なんでとか、どうしてだとかはなんの意味も持たない。そういう生まれなんだとしか言いようがない。僕が生まれた日に父方のおばあちゃんが死んでからずっとね。
周りでね、人が死んでくんだよ。一人二人じゃなくもう何人も。それで親戚間でついたあだ名が死神。笑っちゃうよね。
辛いかって聞かれたら、それなりだよって返すね。実際、それなりなんだ。僕の周りの人がころころと死んでいく気持ちって、不思議なもんでさ。そりゃそうだよ、何か思うより先にころっと逝っちゃうんだから。
実を言えばその続きみたいなものでさ、千穂に会いに来たのは。僕の回りで死んじゃう人の一人だなって。気を悪くしたらごめんよ。でもどうしても言っておきたかったんだ。そのほうがフェアな感じしない?しなかったら重ねてごめんね。
千穂に会いに来たのは、でも思ってたのと違ったよ。なにもかもが。だれもがころっと逝っちゃう中で、どいつもこいつもトップスピードでぶっ飛ばしてく中で、千穂だけは生きてた。変な言い方だね。
でもそう思ったな。
僕はね、初めてだったんだ。誰かに死んで欲しくないなんて思ったのは。
誰かが死ぬってことがこんなひどいことだった、なんて当たり前のことに僕は今更気づいたんだ。
そしてもっとひどい話だなって思うのはさ、そんなことに気づいてもなんにもなりゃしないってこと。