あべ☆ちほ-24
*
その年の最後の日の夜。
人を殺そう。
ごく普通にそう思った。
僕はリュックに果物ナイフを突っ込んで自転車にまたがった。
冷えた空気は信じられないくらいに澄んでいて、宇宙では満天の冬の星座が上映されていた。
その中を僕は人を殺しに行った。
きらきらと輝く星空の下、人を殺しに行く。
現実感がまるでなかった。映画のワンシーンみたいに。
僕は、ジャンプを立ち読みしにいくように目的地を目指した。
人を殺すために。
千穂を殺すために。
自転車をこいでる間、頭のなかでずっと単調な音楽がなり続けていた。なんの曲だろう?僕は僕の頭の中に耳を澄ます。
同じフレーズを金管楽器が入れ替わり立ち代り何度も何度も何度も何度も繰り返す。
無限の地平。永遠に終わらないかのようなメロディ。
でも無限はマヤカシ、永遠ははったりだ。僕はそれを知ってる。誰よりも死神の僕こそがそれを知ってる。
曾祖母は僕が生まれた日に階段を転げ落ちて死んだ。
正敏オジさんは肥溜めに落ちてうんこ塗れで死んだ。
数葉オバさんの次男坊は海で溺れて死んだ。
父は豚にインフルエンザを感染されて死んだ。
母は深夜にダンプに轢かれて死んだ。
他にもたくさん死んだ。
その誰もが、その数日前まで死ぬとは思ってなかっただろう。いつもどおりの明日を、来週を、来年を思い描いていただろう。
誰もが死んだ。或いはこれから死ぬ。
繰り返し続けたフレーズがたった二小節でフィナーレを迎えるみたいに、あっという間に。