あべ☆ちほ-20
駐車場にはドリンクの自動販売機が一つ、聖夜のだれも訪れない工場の裏口で飲み物を売っていた。
――ジュースはいかがですか。コーヒーはいかがですか。
僕と千穂は顔を見合わせたあと小銭入れを取り出した。かじかむ指で硬貨を選別して投入する。
銀貨一枚と銅貨二枚。
ぽっと灯る赤いランプ。全ての缶ジュースたちが自分を選んでくれるのを待っている。千穂は背伸びをして一番上のエメラルドマウンテンのホットのボタンを押した。
がたん!と缶ジュースの生誕の鼓動。
そのときだった。
『Merry X'mas』
自動販売機の硬貨投入口の下についている小さな液晶に緑と赤で映し出されたさえない文字。同時にかかる三和音のちゃちなバックグラウンドミュージック。
あなたからメリークリスマス
私からメリークリスマス
Santa Claus is coming to town.
世界一ちゃちで、そして世界一ロマンチックなクリスマスがここにあった。
「ハッピークリスマス、千穂」
僕は言った。
「ハッピークリスマス」
千穂は返した。
それが僕たちのデートの終焉。