あべ☆ちほ-18
「えへ。よそ行きダメにしちゃった」
乾いた笑い。なーんちゃって、と笑い飛ばして失敗するの図。
僕はとりあえず自動販売機でお茶を買ってハンカチに染み込ませて千穂の袖口をトントン叩くように吹いた。
「怒らないの?」
「汚そうとしてしたんだったら怒る」
「し、しないしない!」
じんわりと滲んでしまって血のシミは落ちない。当たり前だ。でもあらかた目立たなくなったからよしとする。
次に千穂の口元をハンカチで拭う。これはぐいぐい乱暴にやる。
「んぅ!い、痛いよ」
「口の周り血だらけよりいいだろう」
不服そうにこっちを睨む。ここだけ見たらアイスをこぼした彼女をかまってるみたいなワンシーン。
「……か、帰る。って、……言う?よね。当たり前だよね。あたし死に損ないだしね」
僕は首を振った。横に。
「言わないの?」
「千穂はね、今や僕に監禁されてるも一緒なんだよ。死に損ないをゲームセンターに監禁。金のかかるゲームをやらせる、という残虐なの犯罪行為の途中なわけ。だから今更、病院に戻りたいって言ったってダメだよ」
言いながらゲームをやるのに必要なICカードを購入して渡す。
ICカードを両手で大事なものみたいに持って見つめる千穂。
「プロのあまのじゃくは大変だぁ。優しくするのにもそんなセリフが必要なんだもんね」
にやにやと絡みつく千穂の視線。
「いいから早くプレイしなよ」
千穂はうなずいて、どっしりとした椅子に座り、硬貨を入れてカードを挿し、音声ガイダンスにしたがってプレイヤーネームを打ち込んだ。
『ツンデレ』
「病院には亡骸を搬送してやるからな!」
と僕は言ったが、ゲームの始まった千穂には届かない。