このかけがえのない世界へ5-1
昔。
雲の上に四人の人間と神様がいた。
神様は人間に向かってこう言った。
「そなたたち四人の中から一人だけ願いを叶えてやろう。
何でもよい。順に言うてみよ」と。
始めに中年の男性が言った。
「私は軍人だが、何も戦果をあげられていない。
だからこの世の誰にも勝る輝かしい名声が欲しい」と。
次に中年の女性が言った。
「私は貧しい家に生まれ、今まで苦労してきた。
だからこの世の誰にも勝るお金持ちになりたい」と。
次に若い男性が言った。
「僕には殺したい奴がいる。
だからこの世の誰にも勝る暗殺者になりたい」と。
最後にやや背の低い茶髪の少女が言った。
「お腹いっぱいチョコレート食べたい」と。
神様は言った。
「よかろう。
今の四つの願いの内、一つだけ叶えてやろう。
その願いとは―――」
「アル、起きて。
もう朝だよ」
アルと呼ばれた少女が目を開けると、そこは宿の一室だった。
「…夢」
「夢?
どうしたんだい。楽しい夢でも見ていたのかい?」
眼帯の人が尋ねると、ふるふるとアルは首を横に振った。
「ふふっ。
とりあえず顔を洗っておいで。もう出かけるよ」
「どこに行くの」
「実はさっき宿屋の人から聞いたんだけど、この町の外れにとても大きな工場があるらしい。そこへ行ってみようと思う」
「工場?」
「そう。なんでもチョコレートを作っている工場だそうだ。
アルは確かチョコレートが大好きだったよね」
「チョコレート!
いっぱい食べる!」
「そうだね。いっぱい食べられるかもしれないね」
「神様、叶えてくれた!
アルの願い、叶えてくれた!!」
「??
よく分からないけど、ほら早く支度しないと」
「うん!」
アルはとても幸せそうな笑みを浮かべて洗面所へと向かった。
「ありがとう、神様!」
願いを叶えてくれたと思っている神様に礼を述べて。