このかけがえのない世界へ4-1
昔。
文明の進んだ大都市があった。
山よりも高いビルが立ち並び、道路はすべてがしっかり舗装され、車やらスーツ姿の人やらで溢れかえっている。
そんな中、二人の旅人が歩道を歩いていた。
一人はやや背の高い黒髪の若い人。
精悍な顔つきで左目には黒い眼帯をしており、黒くて長いコートを身に纏い、腰にはホルスターが見える。
もう一人はやや背の低い茶髪の少女。
まだ幼さが抜けておらず丸い小さめの眼鏡をかけていて、女の子らしい可愛らしい服を着ている。
二人がしばらく歩いていると、等間隔に植えられている街路樹の脇で十数人の人が集まっていた。
近寄ってみると、10代中頃から後半ぐらいの男女が軍手をはめた手にビニールの袋を持って道端に落ちてある、缶やタバコの吸い殻といったものを黙々と拾っている。
「すみません。少しお伺いしたいのですが」
眼帯の人がその中から近くにいた10代後半ぐらいの男性に声をかけた。
「はい、なんでしょうか」
「あなた方は何をされているのですか?」
「これはゴミ拾いのボランティア活動ですよ」
「ボランティア活動…ですか」
「何それ」
少女が短く尋ねる。
「ボランティア活動とは自発的に行われる無償の奉仕活動のことです。
見ての通り、この都市は多くの人で溢れかえっています。これだけの人がいると、みんながみんな善人とは限りません。中には平気でゴミを捨てていく人もいます。
そこで僕たちは定期的に集まって、このように捨てられているゴミを拾っているのです」
「それは素晴らしいことですね。誰にも頼まれたわけでもなく、自らが無償で働くなんて私には到底できないことです」
「いえ、そんなことありません。ボランティア活動は人の役に立ちたいという心があれば誰にでもできますよ。
それに人の為になることをするのは、とても気持ちが良いことで、お金を貰う労働とは違います。大変有意義ですよ」
「あなたのような方とお話できたことを幸せに思います。
あなた方のボランティア活動によって、この都市からゴミが無くなると良いですね」
眼帯の人が目を細めて、そう言うと、
「それは無理でしょう」
と、即答された。
「…? なぜですか?」
「よく考えてみてください。
これだけの人が住む大都市で、たかだか十数人がゴミ拾いをしたところでゴミは減りません。むしろその間にも他の場所で僕たちが拾った何十倍という新たなゴミが捨てられていることでしょう。