『満月の夜の分かれ道』-9
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「…代!千代!!」
名前を呼ばれて千代は目を開けた。眩しい光が目を刺し、一瞬何も見えなくなる。
「もう駅着くぞ」
声のした方を見上げるとそこには知秀がいた。柔らかいシートの感触と不規則な揺れを感じる。二人はまだ電車の中にいた。
(え…?今の全部…夢?)
「大丈夫か?」
呆然としている千代を知秀が心配そうに眺める。
「ほら、降りるぞ」
知秀は千代の手を取って立ち上がらた。
二人は千代の最寄りの駅で下車し、並んで歩き始めた。
「この辺あんまり変わってないな」
夢の中で聞いたのと全く同じ台詞。
それを聞いた時、何の根拠もないが千代は先程の夢が正夢であると確信した。
(右に曲がればきっと…)
分かれ道はすぐそこだ。
千代は足を踏み出すことが出来ず、その場に立ちすくんだ。
「どうした?」
知秀が怪訝な顔をして足を止める。
『どっちに行くの?』
どこからともなくそんな声が聞こえた。
どちらの道を選んだって元には戻れない。そのことだけははっきりとしていた。
(それなら…私は…)
千代は顔を上げた。
夜空には夢の中と全く同じ満月がぽっかりと浮かんでいた。