無垢-1
絵里は、窓辺で静かに通りを見つめていた。もうすぐ約束の時間だった。
19歳の絵里は、始めてお見合いで相手から見初められ、今日が初めてのデートだった。
絵里は、男性と2人きりで会うのは初めてだった。
相手の隆一の印象は、気さくで明るい青年で、なによりも容姿端麗な素敵な男性だった。
お見合いが始まったころ、絵里の気持ちは明るいものではなかった。相手は名家に生まれ一流大学を出た上に、老舗料亭を立て直した若旦那である。気難しいのではないか?
自分などとても釣り合わないのではないか?と気掛かりでならなかった。現われた隆一はとても素敵な男性だった。絵里は隆一に好意を持ったが、隆一の大人びた対応は、
自分に興味が無いのでは?と絵里を不安にさせていた。そして、諦めかけていたところで隆一にデートに誘われたのだ。絵里は、窓辺で静かに通りを見詰めながら、確かな気持ちの高ぶりを感じていた。
隆一が迎えにきた。淡いブルーのマセラッティだった。絵里にはどのような車か分からなかったが、高級車であることだけは分かった。絵里が玄関から出ると、隆一が立っていた。
「はい。プレゼント!」
隆一が小さな花束を差し出した。そして、隆一は見違えるほどお洒落ないでたちで立っ
ていた。
「まあ。嬉しい。ありがとう。」
「さあ、姫さま。お車へ。」
隆一に手を取られて、絵里は車に乗り込んだ。
「凄い車ですね。」
「ああ、大切な人を乗せる車だからね。少し高かったけど安全な車なんだ。」
「高いって、どれくらいですか?」
「トヨタなら10台分かな?でも、安全も10倍だからコストパフォーマンスは変わらない。」
「10台分ですか?」
トヨタの値段が分からなかったが、凄い値段なのだろうと絵里は驚いていた。隆一は話題に豊富で会話は弾んでいたが、絵里は、どうしても隆一の口から直接聞いておきたいことがあった。
「隆一さん。今日は誘ってくれてありがとう。
もう一度、隆一さんから直接聞きたいのですけど、どうして私を誘ってくれたのですか?」
「どうって、興味があったからさ。」
「それは、女性として?結婚相手として興味があると思って良いのかしら?」
「気になる?」
「はい。一番気になります。だって、隆一さん。凄くモテそうで・・・・
彼女がいないとは思えないですもの?」
「彼女ならいるよ。」
「!!!!!」
「でも、誤解しないで。彼女とは近く別れるつもりなんだ。」
「そんな都合の良いこと、信じられません!」
絵里は、本気で怒っていた。
「まあ、そう思うのが普通だよな。でも、本当なんだ。
僕は彼女が好きだし、彼女も僕が好きだと言っている。
だけど、二人は幸せになれない関係なんだ。
辛いけど、分かれるしかない。仕方がないんだ。」
「本当ですか?なんか複雑ですね?」
「そんな僕が、君に興味を持ったらいけないかい?」
「そ、そんなことはないですけど・・・・・」
「もちろん、お互い何も知らないのに結婚を前提とか、おかしな話だよね。
君をもう少し知りたい。話しがしたいといったところかな。
君も同じじゃないか?」
「それは、そうですけど。」
隆一は、海辺のホテルに部屋を取っていた。