満月-3
「……わかった。お前の『愛』を見届けよう」
晴史はその場を後にした。雅也の事を信じるように……。
「香奈ちゃん。今救けるからね」
それから雅也はただひたすらに香奈の名前を呼んだ。陰陽師の技は一切使わない。彼女を殺してしまう可能性があるからだ。だから、名前を呼んだ。香奈に恋をした一人の男として、香奈を守ると言った約束の為に。
何度も呼んだ。例え爪で傷つけられようとも、吹っ飛ばされても。彼女を救う方法はこれしかない。そう確信していた。
「香奈――――ッ!」
※※※
声が響く。それは優しけれど、とても低い声。意識は奥深くに眠っているけれど、その声だけが私を目覚めさせる。その声だけが私の存在証明――ここにいていんだという証明――をしてくれる。だから、私は目覚められた。あなたのおかけで……。
※※※
「ワシの選択は、間違っていたかのう?」
晴史は呟くように言った。
「いえ、間違っていなどいません」
「なら、いいが……。雅也にはワシと同じ想いはさせたくなかったからな」
晴史は空を見上げた。夜空は星たちが煌めいていた。彼女はワシを許してくれているだろうか。なあ、星たち。
ふっと、過去(むかし)の出来事が、彼女の言葉が思い出された。
『ごめんね』
彼女が死ぬ間際、自分が彼女を殺した瞬間。彼女は笑った。
『ウソつきは私だよ』
彼女と共に公園を歩いた時に彼女がボソッとこぼした言葉。
彼女は許してくれている。真ん丸の月がそう言ってくれているような気がした。
※※※
私が目を覚ますと、見知らぬ世界にいた。真っ白な世界。私は寝かされていて、天井を見上げている。身体のあちらこちらが痛い。頭だけを右に動かすと、雄也君が両腕を枕にして寝ている。腕は包帯だらけ、顔のあちらこちらに擦り傷やら切り傷が沢山ある。私が寝かされていて、雅也君が傷ついている。だから、悟った。ああ、私が傷つけたんだ、と……。
私が傷つけたと思うと、涙が流れる。そして、彼を見つめていた。彼に別れを告げようと思っていたのだ。これ以上彼を傷つけるわけにはいかない。
彼は数回まばたきをして、目を覚ます。