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満月
【ファンタジー 恋愛小説】

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満月-2

窓をあけているので、風が入ってくる。風が冷たいけれど、お風呂上がりには心地よかった。そんなときロックが窓からひょいと出て、逃げてしまった。たまにこうやって逃げてしまう。ロックは帰り道を覚えていない為、私が探す必要がある。だから、今夜も上にカーディガンを羽織り、パジャマのまま探しに行く。

「ロック? どこにいるの?」

ロックを探すけれど、今夜に限ってなかなか見つからない。そして、夜空にはタイムリミットが迫ってきていた。徐々に月に掛かっていた雲が消えていくのだ。運が悪いことに、今夜は満月。ある能力が出てきてしまう。

早く探さなければ。そう思った矢先、ロックを発見した。民家の屋根の上に包まっている。早く、早くしなければ。

「ロック、おいで」

呼び掛けた瞬間、満月を見てしまった。私の意識は奥深くへ消えていった。

※※※

安部雅也は走っていた。不穏な気配を察知したから走っていた。途中聞いた話だと、巨大な狼が暴れているという。白髭が特徴的な父親から、香奈は狼になるということは聞いていた。だから、雅也は自分を責めていた。守ると、彼女を守ると言ったのに守れずにいる。そんな自分が不甲斐ない。

巨大な狼の所に着くと、既に父親――安部晴史(あべはるふみ)がいた。黒の和服。それは正装。人間あらざる者を抹殺する際に使用される正装。

「父さん! 何をしてるんですか!」

晴史は空中に右手で、五芒星をきっている。何度も何度も。

「この者を抹殺する」

「ダメです! この人を助けます!」

「おまえも陰陽師の末裔ならわかるだろう? 人あらざる者を救うには抹殺するしかない」

未だ五芒星をきることを止めない。雅也の為なのだ。それをわかってくれ。そんな気持ちがこめられていた。

「確かにそうです! それでも他に可能性があるなら、それに賭けるべきじゃないですか?!」

「では、そのせいで、怪我人や死人が出たらどうする? お前はその責任を取れるのか?」

「取ります! 愛する人を守れなくて、救うことが出来なくて、なにが陰陽師ですか!」

「それでも、ダメだ。お前は『愛』の意味をわかっていない」

晴史は雅也に過去の自分を照らし合わせていた。かつて、晴史も人あらざる者に恋をし、雅也と同じ台詞をはいた。だが、その結果は最悪のものとなった。

「『愛』とは相手を護るだけではない。その周り人を守ること、自らも守ることを指すのだ。怪我人や死人をださなように、心に傷を負わせないように、なにもかもを守る事を『愛』と呼ぶのだ。それが出来なければ、この娘を殺せ」

「全てを守ります! 守ってみせます!」

それは親への決意であり、自らへの決意であり、香奈への決意。だれもが傷つかない方法を見つけだすという不可能を可能にする為の決意でもあった。

果たしてそれが伝わったのかはわからないが、晴史は手を下ろした。


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