『Scars 上』-40
「イオリ!」
俺を呼ぶ声。
レイのものではない。
ユウジだ。
「策は成った」
遠回りして駆けつけてきたユウジの部隊。
怒涛の激流を堰き止めるように。
路地からあふれ出るBMTの大群にぶつかる。
狭い路地の出口。
たとえ百人以上いようと、その大半は路地の中に残されたままだ。
ユウジの率いる十人でも十分押さえ込める。
俺の目の前で驚愕の表情を浮かべる青柳。
ユウジとレイの部隊に挟まれて、大通りに出れたBMTはわずか数人だった。
「チェックメイトだな」
完全に孤立した青柳に、俺はそう告げた。
「ま、待て!」
顔を青くして、青柳は静止の手を上げる。
「決めようぜ、この街の王を!」
俺は、青柳に殴りかかった。
必死に青柳を守ろうとするBMTの連中は、レイたちに殴り飛ばされている。
そして完成する構図。
俺と青柳の一対一。
青柳の引きつった顔面。
そこに俺の拳がめり込んで行く。
「ひぎっ!」
潰れたカエルのような声を上げて後ろに吹っ飛んでいく青柳。
「まだだ!」
更にもう一撃。
「げふう」
地面に倒れることも許されずに、青柳は再び顔面を強打される。
宙に投げ出された青柳の身体は、数メートル後方に飛んで行き――。
「が、がはっ!」
BMTの大群がひしめく路地の出口へと落ちた。
「……」
わずかな静寂。
雨の音が増したような気がした。
誰もが呆然としていた。
たった今まで圧倒的有利に立っていたBMTの頭が。
「……バカな」
無惨にも、BMTの目の前に倒れ伏しているのだ。
青柳はぴくぴくと痙攣しながら白目を剥いている。
「青柳サンが、やられちまった」
呆然とするBMTの一人が洩らした呟き。
その呟きを皮切りに、みるみると戦意を喪失していくBMTの面々。
「くっくく」
俺はこみ上げてくるものを抑えられなかった。
「あーっははっはは!」
咆えるように笑い声を上げる。
雨が絶え間なく落ちてくる天に向かって。
勝った。
俺は、この街で最強になったのだ。
このゲームの勝者は俺だ。
俺の笑い声を聞いて、力なくうなだれるBMTの男たち。
ザコどもめ。
その足りない頭をフル回転させて理解しろ。
そして、平伏せ。
……この、俺にな。
雨の中をゆっくりと、気絶する青柳に向かって歩いていく。
しかし、理解できない。
この程度の男がBMTの頭とは。
「……興ざめだな」
百人のBMTが見守る中、俺は気絶する青柳の顔を踏み潰した。
遠くから、音が聞こえてくる。
やかましいサイレンの音。
「やっと警察の登場か?」
なんと腰の重い。
公務員なんてそんなものなのか?
「逃げるか。レイ、このザコを運べるか?」
そう呟いて、おもむろに振り向いた。
刹那。
「イオリ!」
突然、どんと、ユウジに背中を押される。
なんだよ、ユウジ。
そう文句を言おうと、振り返った時。
ユウジの重い体が、だらりと圧し掛かってきた。