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『Scars 上』
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『Scars 上』-41

「ユウジ?」
思わず抱きとめてしまう。
瞬間、脳裏にノイズが走った。

視界が霞んで、鼓動が早まる。

ある筈のないものが、ユウジの腹から生えていた。

なんだこれは。

息が苦しくなった。

瞬きが出来なくなる。

目が、ある一点から離せなくなった。

どろりと、流れ出る赤い液体。

力なく垂れ下がるユウジの腕。

「なんだこれは!」
ユウジのわき腹に深々と。
「なんなんだ、これは!」
鈍く銀色に光るナイフが刺さっていた。
目に映る光景が信じられなかった。
理解できなかった。
「……調子に乗るなよ。ガキが」
ドスの効いた声がする。
濁って冷え切った目。
大きな傷跡の走る頬。
明らかに高校生ではない面体。
プロの殺気。
「次は、お前を刺すか」
俺の足元から声が聞こえる。
地を這うように、腰を低くした大人が、そこにいた。
ヤクザ。
ふとそんな単語が脳裏に浮かぶ。
ゆっくりと懐から、男はもう一本のナイフを引き抜く。
「ひっ――」
血まみれのユウジを抱えたまま。
俺は自分のものとは思えぬほど、情けない声を上げた。
「ガキ相手に本気になってんじゃねえ」
目の前の男とは別の大人の声。
気がつけば、もう一人の男が、ずずっと地面を擦りながら気絶した青柳を運んでいく。
「ちっ――。若のお守りやってる俺のメンツを潰しやがって」
ナイフをチラつかせて、凄む男。
俺は声すら出せなかった。
膝ががくがくと震える。
「なんだ、震えているのか。最近のガキは根性がねえな」
ファンファンと近づいてくるサイレン。
「おら、時間だ。退くぞ」
青柳を抱え上げた男が走り去る。
その男に続くように、ナイフを持った男がずいっと顔を寄せてきた。
「……てめえ、いつか殺すからな」
そう耳元で囁いて。
男は去っていった。
「オラ、散れや! ガキども」
ドスを効かせた声を響かせて、去っていく男の背を見つめながら。
「ユウジ……」
俺は地面にへたり込んだ。
「大丈夫か、イオリ、ユウジ!」
レイが駆けつけてくる。
「くそ、警察の数が多い。今まで無視してたのに何だよ、この数は!」
耳元でレイが何かを叫んでいる。
「おい、イオリ指示をくれ! おい、救急車も呼ばないと!」
俺は、ただ真っ赤なものを見ていた。
「クソッ! お前らは逃げろ! サツに捕まんないように、バラバラに逃げるんだぞ!」
ユウジのわき腹から、とめどなく溢れてくる赤いものを。
雨に流されていく、ユウジのかけらを。


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