『Scars 上』-39
「今だ、走れ!」
俺は傘を放り投げて、ユウジに合図した。
そして、身を翻して路地の出口へと走る。
「レイ、ついて来い。逃げるぞ!」
「逃げるのかよ!」
冷たい雨が身に降りかかる。
行く先を阻む、BMTの連中を殴り飛ばす。
青柳、せっかく見つけたBMTの頭に背を向けて走る。
「はははっ! 所詮口だけか。情けないぜ、水瀬!」
背中で聞こえる青柳の嘲笑。
「バカか、お前は。この場を逃げ切れば俺は負けないんだよ。百人使って俺を倒せなかったら、どう見てもお前の負けだろ?」
振り向きざまに、青柳を挑発した。
そのスキに、俺を殴ろうとしたBMTの一人に、レイが強烈なパンチをお見舞いする。
「この野郎……!」
見るからに頭に血を上らせた青柳が、俺に向かって駆けて来る。
……扱いやすい奴だな。
「何やってんだ、お前ら! そんな女みたいな男に手こずってんじゃねえ!」
部下を押し退けるように、こちらに向かってくる青柳。
周りは敵だらけ。
数人しかいないわずかな味方。
狭い路地の中、絶体絶命のピンチ。
押し寄せるBMT。
必死に抗おうとするレイたち。
そんな中。
「ふはは」
俺は笑った。
首筋がちりちりする程の快感。
圧倒的なスリル。
これだよ。
俺が求めていたものは。
不意に振り下ろされた角材が、前髪を掠める。
危ない危ない。
これじゃあ、やられるのは時間の問題だ。
だけど。
「イオリ、道が開けたぞ!」
レイが叫ぶ。
見れば、確かに路地の出口、大通りへと抜ける道が開けていた。
レイたちが必死に作った突破口。
「まだだ!」
その場に踏みとどまって、周りの敵を殴り飛ばす。
「なんでだよ!」
戸惑いの表情を浮かべるレイを尻目に、俺は殴りかかってきた敵を蹴り飛ばした。
先ほどから絶え間なくカウントを繰り返す脳内時計。
大切なのはタイミングだ。
「水瀬ぇ!」
青柳は、手の届きそうな程に接近している。
しかし、その周囲を固める屈強なBMTの面々。
さすがに、青柳一人で突出したりはしない。
頭がやられたら、そこで勝負はついてしまうから。
脳内時計のカウントが止まった。
「行くぞ、レイ」
即座に身を翻す。
「なんなんだよ!」
迫り来る敵には目もくれずに走る。
遅れてついてくるレイ。
そして、青い目を血走らせて猛追してくる青柳。
駆けた。
近づいてくる出口。
身を刺す様な冷たい雨に打たれながら。
「絶対に、逃がさねえからな!」
路地を抜けた。
交通量の多い車道。
左に折れ曲がる。
俺に続くレイの部隊。
路地から迸る激流のように溢れ出てくるBMT。
その先頭には怒声をあげる青柳。
BMTの頭。
ドンピシャだ。
「反転!」
俺はレイの部隊に命令を下して、反転する。