投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『Scars 上』
【その他 その他小説】

『Scars 上』の最初へ 『Scars 上』 24 『Scars 上』 26 『Scars 上』の最後へ

『Scars 上』-25

「そろそろ決めるわよ?」
……絵になるのだ。
その仕草が、可憐で、優雅で。
「……ユウジのこと言えないか」
誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。
上段に構えたアスカがじりじりと間合いを詰めてくる。
息を静かに吸い込みながら、真剣な眼差しで。
それに答えるように構えながら、俺は反省する。
今まで、何度かチャンスはあった。
確かに、アスカは強い。
しかし、その動作はどれも派手で。
綻びは見えていたのだ。
それなのに――。
「ヤアアアアアア!」
気合と共に、木刀を振り下ろすアスカ。
それを大きく跳んでかわす。
……今だって、最小限の動きでかわせば反撃できるのに。
なんとなく、わかってはいた。
俺は――。
「……私ね」
木刀を激しく地面に打ちつけたアスカが口を開く。
「あんたみたいに、強いヤツ好きよ」
俺は、この女との喧嘩を楽しい、と感じているのか。
この時間を終わらせたくない、と。
だけど。
「勝ったときの喜びが倍になるから!」
地面を蹴るアスカ。
木刀を突き出して。
気持ちよいくらいにまっすぐな突き。
「……」
しかし、俺の頭はひどく冷静だった。
体が自然と動いてしまう。
アスカの動きが細切れに見て取れる。
木刀と向き合うように、腰を落とす。
集中。
感覚が全て、目に集中していく。
眼前に迫る木刀。
静かに。
拳の甲を、添える様に木刀に宛てる。
わずかに軌道を変える木刀。
驚きの表情を見せるアスカ。
俺の頬の数ミリ横を、木刀が通り過ぎていく。
どんどん近づいてくるアスカの顔面。
それを待ち構えるように、俺の利き腕が力を溜めている。
アスカの美しい顔が、恐怖に引きつっていく。
ああ。
これで、終わってしまう。
胸に去来する感覚。
寂しさと、せつなさと

「アスカあ!」

「!!」
不意に消え去るアスカ。
次いで聞こえてくる、耳を劈く爆音。
息を吹き返したバイク。
バイクを操る獣のような男。
その太い腕にアスカを抱えて。
シバが掻っ攫うように、アスカを奪っていく。
俺の脇を走り抜けていくバイク。
先ほどの焼き増しを見ているようだ。
見事な救出劇。
「……あの野郎、生きてやがったか」
地面に置き去りにされた木刀。
突然の出来事に呆然とする部下達。
野獣にさらわれたアスカは、どんどん離れていく俺を見て。
アスカの口角が上がっていく。
それは。
「……あいつ」
とんでもなく魅力的な笑みだった。
次は負けない、とでも言いたげな笑み。
「だったら、もっと憎たらしい顔しろよな」
複雑な気持ちで、バイクを見送る。
してやられたのに、なんだ。
この爽快感は。


『Scars 上』の最初へ 『Scars 上』 24 『Scars 上』 26 『Scars 上』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前