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『Scars 上』
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『Scars 上』-24

「ハアアアアアア!」
木刀を上段に掲げて、間合いを詰めて来るアスカ。
どうする、よけるか?
いや、今の気分は――。
「オラァ!」
思い切り。
迫り来る木刀に、自分の拳をぶつけた。
目の前で静止する木刀。
鈍く痛みを上げる拳。
「な――」
俺の予想外の行動に、目を丸くするアスカ。
隙だらけだぜ。
左の拳で、ガラ空きのアスカの腹を殴る。
「くっ!」
寸前の所で、木刀の柄の部分でガードされた。
大きく後ろに飛び退るアスカ。
結構な跳躍距離。
その高い身体能力に舌を巻く。
わずかに弛緩する空気。
俺は拳の痛みを堪えて、着地したアスカと見詰め合う。
狭くなっていく視界。
途切れていく雑音。
まるで世界には、俺たち二人しか存在していないような錯覚を覚える。
「ふーん?」
興味深いものを見つけたように、アスカの頬が緩んでいく。
しかし、次の瞬間。
アスカは地面を蹴っていた。
一瞬で詰められる間合い。
「ハッ!」
木刀の一閃。
わずかに仰け反って、それをかわす。
「ふんっ」
牽制で出した左のジャブ。
「甘いっ」
それは難なくかわされてしまう。
……強い女だ。
アスカと攻防を繰り返しながら、そんなことを考える。
俺の全力を、全て防ぎ、かわす。
その応酬に繰り出されたアスカの攻撃を、俺も避けたり、防いだり。
そんなことを何度も繰り返した。
「……何よ」
不意に口を開くアスカ。
「オトモダチに守られて偉そうにしてた割には、強いじゃない」
「これでも、桜花のトップ張ってるんでな」
拳と木刀を交えながらの会話。
お互いに汗をかき、息を弾ませながら。
「オウカって何?」
横薙ぎに木刀を振るうアスカ。
肘を立てて防御。
「ヤンキーのくせに桜花を知らないのか?」
アスカの太ももを狙ってローキック。
「フッ」
小さく呼吸して、アスカは飛び上がる。
空を切るローキック。
……普通、ジャンプでかわすか?
恐るべき身体能力。
「……ヤンキーなんかと一緒にしないでよ!」
宙に浮いたアスカは、そのまま俺の顔面めがけて蹴りを放つ。
舞い上がるスカート。
伸びきる白い脚。
パンツが見えるのなんて気にしないらしい。
「……」
無理な体勢で放ったせいで、体重の全く乗っていない蹴りを片手で叩き落とす。
「あっ」
バランスを崩すアスカ。
絶好のタイミング。
「……チッ」
しかし、手が出なかった。
着地するアスカ。
体勢を立て直して、木刀を振りかぶる。
上段の構え。
空気の澄んでいく夜更け。
数台のバイクのヘッドライトに照らされて。
一人の少女が勇ましく、俺の前に立ちふさがる。
いちいち。


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