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『Scars 上』
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『Scars 上』-19

「まあな。ニワトリの調べたデータのお陰だ」
シバの行動パターンを分析して、待ち伏せし、おとりの部下に喧嘩を売らせる。
引っかかったシバを人目につかない広い場所に誘い込み、大人数で叩く。
誰にだってできる簡単な作戦だ。
結局。
どんなに強くたって、一人である時点で俺には勝てないのだ。
「惨めな奴だ」
哀れな者を見つめるように、俺は大暴れするシバを眺めた。
「うおおおおおお!」
ここまで聞こえるシバの獣じみた雄たけび。
五十人いた部下の最後の一人が、雄たけびをあげたシバに殴り倒される。
「……見事」
俺は目を細めて扇を掲げる。
待機していた部下への合図。
剣呑な雰囲気を漂わせた部下達がゆっくりとシバへと歩み寄っていく。
それぞれの手に握られた、角材、金属バット、鉄パイプ。
化け物相手に、武器を使う躊躇はない。
たった今、シバに殴り倒された五十人は俺に対してあまり従順ではなかった者達だった。
かつての鮫島の部下達。
そいつらを脅して無理やり参加させた。
いわば死兵。
本番はこれからだ。
更に五十人。
思い思いの武器を手に、シバを取り囲む。
さすがのシバも顔色を変えて立ち尽くしていた。
「これが俺とお前の差だ」
俺はゆっくりと扇を振り下ろした。
『うおおおおおおお!』
五十人が一斉にシバに向かって走り出す。
地面を揺るがす足音。
両手を上げてガードを固めるシバ。
……無駄な足掻きを。
一斉に振り下ろされる凶器。
肉を穿つ、鈍い音。
「ぐはっ!」
シバが低い呻き声をもらす。
……普段なら、道具もち五十人くらいでも切り抜けられたかもしれないがな。
さすがに、五十人ぶっ飛ばした後はきついだろ。
更なる部下達の攻撃。
シバの巨体が、大きく揺らいだ。
地面に膝をつくシバ。
「ふっ」
思わず失笑が漏れてしまう。
一陣の風が吹き抜ける。
冷たい夜風。
風に巻き上げられた髪を押さえながら、俺は部下達に殴られ続けるシバを眺める。
「ふはははははは!」
堪えきれない哄笑。
……あのシバが。
止むことのない部下の攻撃。
……俺をさんざん苦しめた、あのシバが。
地面を舐めるように倒れ伏すシバ。
その全身には全く力が入っていない。
ぐったりと倒れたまま動かない。
それでも、部下達は攻撃をやめようとはしない。
……最高の気分だ。
「ふはははは!」
その時。
俺の笑い声に反応するように。
ぴくりと動くシバの指先。
ゆっくりと顔を上げて。
その獣の双眸が。
「あん?」
俺を鋭く見据えた。
「……キサマ」
地獄の底から響くような声。
俺のことを認識したらしい。
「……卑怯だとは思わないのか」
その憤怒の篭った声に、部下達が一瞬動きを止める。
「思わないな」
俺は遥か頭上から、冷たく言い放った。
負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「うおおおおおお!」
それは、まるで豹のようだった。
最後の力を振り絞って。
獲物に狙いを定めた豹が、全身をバネにして、低く飛び上がる。
満身創痍のシバが俺めがけて、猛スピードで向かってくる。
あまりの迫力と速度に、部下達は身動きすることができないでいる。


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