双子の姉妹。 8-1
じゃあ俊哉、行ってくるから。
俊哉、晩御飯はカレーにするからね。
わかった、気をつけて。
二人とも、いってらっしゃい。
「……」
忘れもしない。
これが最後の会話だった。
どこの家庭にもある、いつもの何でもない会話。
たった車で10分の距離にある、近所のショッピングモール。
その行きがけに、父さんと母さんの乗った車は居眠り運転の大型トラックと衝突した。
二人とも死んだ。
その夢を、今日久しぶりに見た。
あの事故以来、それまでの当たり前の家庭というものがぽっかり頭から欠けていた。
家族でどんな会話を毎晩していたかとか、家族と食べるご飯の味だとか。
結局、今は櫛森家が俺の本当の家族のような気さえしている。
「…そういえばおばさん、この間どちらかと付き合ったら家で暮らしてねって言ってたっけ。なんかその前からも家で暮らしてって言ってたなあ」
そんなことを一人呟いて、ははっと笑う。
本当に運がよかった。
当然、数多くのいろいろな偶然が重なったのだが、バイト先があの家じゃなかったらもっと違う人生だっただろうな。
「よし!今日は土曜日だ!今日も家庭教師、頑張るぞー!」
一人暮らしだからできる、恥ずかしい独り言だった。