新人-10
「あんたは私の高校時代の部活を知っているようだったし、藤がね、あんたは私を昔から尊敬してるって言ってた」
あの日、夏菜と目があったのは夏菜が私を知っていたから。
出会いじゃない。あれは、再開だったんだ。
「よくそんな嘘が言えるね」
「カナ、嘘は言わないですよぉ」
よくもそんなことが言えたものだ。
「顔」
「はい?」
「顔、整形したの?」
「はい!」
やっぱり。
私が知っている夏菜と顔が全然違ったから。
「だってー、こういう顔、先輩好きですよね?」
また、私が出てきた。
この女、何言ってんの?
「何でそこで私が出てくんの。あんた、私に復讐するつもりなんでしょ」
「復讐?」
二つ年下の夏菜。
私が三年であの子が一年。
当時夏菜と付き合っていた男が夏菜を振って、私に告白してきたことがあった。
私はそれを断ったものの、夏菜は私を逆恨みしている、という話を聞いたことがある。
大して気にしてなかっただけに、すっかり忘れていた。夏菜の存在と共に思い出した、小さな記憶だ。
「そう、復讐。私に男取られたと思ってんでしょ。だから私に同じことをした。それだけのために顔まで変えるなんて…」
やっぱり狂ってるとしか思えない。
夏菜の笑顔が消えた。
図星だからだろうか。
「違いますよ」
しかし、夏菜の答えは意外なものだった。
「違いますよ、先輩」
何言ってんの?往生際が悪い。
しかし、この夏菜の雰囲気身に覚えがある。
目は虚ろで呟くような小さい声。
一緒に買い物に行った時、コーヒーショップで見せた雰囲気だ。
「私は夏菜じゃありません」
え?
目眩がした。
何言ってるの?
「私言いましたよね。嘘は言いませんって。言いましたよね、同じ部活内にカナが二人いたって」
そういえば、入社してすぐそんなことを言っていた気がする。
それが本当だとすると…。
「先輩が思ってるカナじゃありません。私はもう一人の方です」
そんな…。もう一人。
分からない、思い出せない。