投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

新人
【その他 その他小説】

新人の最初へ 新人 10 新人 12 新人の最後へ

新人-11

「びっくりしてますね。残念です、思い出してもらえなくて」

カナがゆっくり近付いてくる。
分からない、分からない。
この子、誰?

「私は知ってますよ、先輩のこと」

カナが近付いて、私は後ずさりする。
うつむき加減の虚ろな瞳が不気味で、思いだそうと頭を働かせるも焦るばかりで一向に思い出せない。

「藤さんは邪魔だったんです。私は好きじゃない。先輩一筋ですから」

私一筋ってどういうこと?

「…近寄らないでよ」

「あのお客さん、サキでしたっけ。大怪我じゃなくて残念です。温度が低すぎでしたね。顔はそのままだった…」

「…来ないで」

「チーフもサキも藤さんも先輩のこと嫌い。私だけなんです、先輩は私だけのものです」

リビングの方に追い詰められて、膝の裏にテーブルが当たった。
チラリと後ろを確認すると写真立てのようなものが目に入った。

「来ないでって!」

私はそれを咄嗟に投げた。それはカナの頬に掠るように当たると、軌道を曲げ壁にぶつかり派手に割れた。

「はっ…はぁ」

カナはその場で歩みを止め、頬を触る。
その手を離すと、カナの頬には少量の血が滲んでいた。
私は怖くなった。
人に怪我を負わせたことに不安を感じた。
もしかして警察沙汰になったりするの…?

「…ハハ、アハハ」

しかし恐怖は別の物へと変わった。
私の心配を余所にカナは笑う。

「先輩に怪我させてもらっちゃった♪」

――?

どうしてそんなこと言えるの。
先程割れた写真立ての写真が剥き出しになっているのが、視界の隅で見て取れた。
その瞬間、体内に警報が鳴り響いた気がした。
見るな。
そう思っていても確認しなければならない。

「…それ、何!?」

私の声が震えた。
その写真は間違い無く私だった。
いつ撮られたか分からないが、最近のものでは無い。
高校生ぐらいの私がそこで笑っていた。

「何であんたが私の写真持ってんの!?」

私はそれを指差しながらヒステリックに叫んだ。
人に対して大声を出したのは生まれて初めてだ。

「あーあ、割れちゃった。勿体無い」

カナが写真立ての側にしゃがみこむ。
髪が前にダラリと垂れてカナの顔を隠した。


新人の最初へ 新人 10 新人 12 新人の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前