海螢(芙美子の場合)-8
縛られた母の裸体が瞳の中に浮かんでくる。自分を苛み、虐げることでしか母には逃れるところ
はなかったのかもしれない。
ベッドにゆるやかに押し倒された芙美子の髪の中に、タツオさんは顔を埋め、どこか懐かしい
ものを求めるように匂いを嗅いでいる。
かき分けられた耳朶が甘く噛まれるように彼の唇に含まれていく。
タツオさんは、芙美子が耳朶をそんな風に愛撫されることが好きなことを知っているのだ。
もしかしたら…
…お母さんに似ているね…
そんなことを言われることが、なぜかもう嫌いではなかった。
揉みしだかれる乳房を、タツオさんの唇が柔らかく掬いあげるように這う。その唇に自分の乳房
の湿った肌が絡むのがわかった。しだいに乳首が早春の芽のように色づき芽生えてくる。
そそりたつ桜色の乳首をなぞるタツオさんの舌と乳首の表面を啄む唇…芙美子は咽喉の奥から
自然に喘ぎ声が迸る。
タツオさんの掌が、下腹部にすべるように伸びてくる。
タツオさんのすべてを受け入れることを欲している自分がいる…芙美子はふとそう感じた。
三十五歳のからだに、どこか素直さと安らぎがひたひたと潮のように満ちてくるようだった。
タツオさんの裸のからだは、コックコートを着ているときよりは華奢で骨細な感じだった。タツ
オさんが自分のトランクスに手をふれ、ゆっくりと脱ぎ捨てた。
芙美子の視線が、タツオさんの臀部を追っていた。
そうなのだ…芙美子はタツオさんの臀部にあるものを見たかった。
タツオさんの太く堅い幹のようなペニスが、芙美子のふさりとした繊毛に隠れた柔らかい秘裂を
とらえる。いつのまにか汗ばむように潤んだ芙美子の性器の中が、湧き出す泉のように蜜液で
満たされ始める。
堅いペニスの先端が、芙美子の渦を巻いた毛先を絡みながら挿入される。腰を優しくゆるやかに
押しつけてくるタツオさんのペニスが、芙美子の肉襞を揺りあげる。
もっと深く、深く、タツオさんのペニスと自分の襞が溶けあって欲しかった。
…あっ…あっ…
喘ぐ。芙美子は自分でも信じられないくらい烈しく喘いでいた。