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嘘つきレイニーデイ
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嘘つきレイニーデイ-1

君の横顔が何よりも美しいことを僕は知っている。よく晴れた日曜日の午後、日差しを浴びながら僕は芝生に寝転んでぼんやりと君の横顔を眺めている。空には白い鳥が音もなく飛んでいく。僕は君に声をかける。「ああ、そういえばこの間約束したレストラン、予約したよ」って。君は何か遠くを見ていて、僕の言葉に反応するまでに少しだけ間があった。だから僕はその間に空に浮かぶ雲をぼんやりと眺めた。次に視線を君に向けたときには、君は僕のほうを見ていて、目が合って僕らはそっと笑う。「そう、楽しみにするね」と君は言った。

「三日後だよ」と僕は言った。そのレストランはとても人気があって、本当は三日後も予約で一杯だった。でも、僕はレストランに事情を説明して、無理やり空けてもらったのだ。時間がないんです、と僕はレストランの従業員に言った。その日が最後のチャンスなんです、と。

「何を食べようか」と君は言う。「スパゲッティーとピザとサラダがいいな。どう?」

「いいね。ビールを飲みながらゆっくり食事したいね」

「ねえ、覚えてる?」

「何を?」と僕は言う。

「二年前も、この公園に来たじゃない?」

「ああ、あの日も天気がよかった」

「嘘ばっかり。雨が降っていたんだよ。ピクニックを楽しみにしていた私が、前の日から準備してお弁当を作って、でも当日は雨が降ってしまったの」

「そうだったね」

「そう。でもね、あなたが行こうって言うから、結局はこの公園に来たの。ベンチに座って、傘をさしたままお弁当食べたんだよ。バカみたいだねって、笑いながら。でもね、バカみたいだったけど、楽しかったよね」

「そうだね。楽しかった」

「ありがとう」

「もう二年も前の話だろ?」

「そうじゃないよ」そう言った君の顔は少しだけ悲しげで、僕はそれで何も言えなくなる。



 君が眠ってしまうと、僕はベッドをそっと抜け出す。リビングの片隅には僕の仕事用のデスクが置かれていて、一段目と二段目の引き出しには鍵がかかっている。一段目には僕の名前の書かれたプレートがあり、二段目には僕の恋人の名前が書かれたプレートがある。

 僕らはお互いに、その引き出しの中に何が入っているのかを知らない。僕らはお互いの小さな秘密をその引き出しに封じ込めた。そして、秘密の引き出しを開けるための鍵は、各々が隠し持っている。どうしてそんな事をはじめたのかといえば、君が言い出したからだったが、それは悪いアイデアではない。ユニークだし、そもそも人はいくばくかの秘密を抱えながら生きるものなのだろう。僕は賛成し、引き出しに鍵を取り付け、プレートをつけた。

 僕の引き出しを開ける鍵は、リビングの掛け時計の裏側に隠してあって、僕はそれを取って自分の引き出しを開ける。引き出しには小さなカレンダーが入っていて、僕はそのカレンダーの今日の日付に○印をつける。それは八十七日前からの習慣で、僕は必ずそれをしていた。一日の終わりには、カレンダーに印をつける。

 それから、僕は過去の自分が書いた日記帳を取り出してみる。そして、二年前の雨降りの公園でのピクニックに関しての記述を探し出す。【公園へ行った。彼女の作ったお弁当を食べた。おなかが苦しくてたまらないけど、彼女が前の日から作ったお弁当を残してはいけない。結局全部食べた。満腹です。そういえば、外国では三秒に一人が飢餓で死んでいるという話をどこかで聞いたことがある。それを考えると、自分はなんて幸せだろう。】

 僕は溜息をつく。天気の事なんてそこには書かれていなかった。僕が日記の内容を忘れるはずはなかった。

 

 失ったものには手が届かないということを、未だ僕らは理解できずにいる。


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