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嘘つきレイニーデイ
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嘘つきレイニーデイ-3

「あと、三ヶ月だって」と、八十七日前に君は言った。僕は黙って、話を続きを待った。

「あと三ヶ月したら、遠くにある大きな病院へ行かなきゃならないの」

「そんなに悪いのか」

「そうみたい。それでね、私思ったんだけど、その時にね……。その時に、終わりにしたいの」

「終わり?」僕は君が何を言いたいのか瞬時には理解できなかった。その終わりが何の終わりを示唆しているのかが分からなかった。「それはつまり、僕と別れるということ?」

 君は声には出さず、頷いた。

「僕のこと、嫌いになった?」

 君は首を横に振る。

「僕のことは嫌いではないけど、それほど好きでもない?」

 君はぶんぶん、とさっきよりも激しく首を横に振る。

「他に好きな人出来たの?」

 君は僕を抱きしめた。そして耳元で囁くようにして僕に愛を告げた。でも、もうおしまいにしたいの、とも。その後で、君は少し泣いた。

 僕の説得も虚しく、君の気持ちは変わらなかった。やがて僕は君の意思を尊重し、言った。「分かった。君がそうまで言うなら、その時に終わりにしよう。でも、それまでは今まで通り一緒にいよう。それから、僕は君とおしまいになったとしても、きっとずっと君の事を好きでいる。だから、いつか僕のところへ戻りたいと思ったら、いつでも好きなときに戻っておいで」



 約束のレストランで食事をした次の日、君は家を出て行った。その日も雨だった。彼女は僕の住む街を離れ、どこか遠くの街の、大きな病院へ行くのだ。



 君がいなくなった後、僕は寝室のベッドの上に鍵が置かれているのを見つける。僕はすぐに気がつく。それが、デスクの二段目、秘密の引き出しの鍵だという事に。しばらく迷った後で、僕は結局その引き出しを開けることにした。それは、君が望んだことなんだろう、と僕は思ったからだ。そうでなければ、わざわざ僕が見つける事が出来るように鍵を置いたりはしない。

 デスクの前に立ち、二段目の引き出しの鍵を回す。鍵は何の造作も無くすんなりと開く。恋人の引き出しの中には、日記帳と、柔らかい布でくるまれている何かが入っていた。僕は日記帳を取り出し、試しに二年前の雨の日のピクニックについての記述を探す。【せっかくのピクニックなのに、土砂降りでした。残念。でもお弁当はおいしかった】。日記をぱらぱらとめくる。最後の項には昨日の日付が書いてある。【今までありがとう。私は本当にあなたの事が大好きだった。もう、あなたは大丈夫。】

僕は日記を閉じ、一緒に引き出しに入っていた柔らかい布の包みをそっとはずす。中に、あの日無くしたはずの婚約指輪が見つかる。僕は混乱する。どうしてこんな所に指輪があるのだろうと僕は思う。そして、先ほど日記を読んだときに感じた小さな違和感を思い出す。窓の外から、強い雨の音が聞こえる。



 日が暮れかけて、僕は思う。

一体あの日々の中で嘘をついていたのは、僕だったのだろうか、それとも、君だったのか。例えば、ある一つの大きな秘密があったとして、それを相手に打ち明けることは果たして正しいことなのだろうか。どちらともいえない。そういう時、僕らは自分が正しいと思うことをする。だから、僕は君に何も話さず、君は僕にそっと種明かしをした。



僕は指輪を眺めながら雨の音を聞いている。

膝を抱えて、部屋の片隅で、一人きりで。


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