嘘つきレイニーデイ-2
九ヶ月前のある日。確か、その日は雨が降っていた。目を覚ました時にはもう雨が降っていたから、多分僕が眠っている時からずっと降っていたのだろう。
仕事を終え、会社を出てもまだ雨は降っていた。車へ乗り込み、ふと助手席を見る。そこには恋人へ贈るはずの婚約指輪がしっかりと包装されて置かれている。
車を走らせ、家路につく。路面は濡れていて、ヘッドライトが反射する。強い雨が、フロントガラスに降りつける。僕の車が赤信号で止まっていたとき、そのトラックは対向車線からはみ出し、僕の車に激突した。
幸い僕の命に別状はなかった。恋人へ贈るはずの婚約指輪は見つからなかった。右足を複雑骨折した事を除けば、僕に外傷はほとんどなかった。そう、ほとんど。代わりに、僕の車は廃車になった。
「退屈な入院生活だったよ」と、僕は君に言う。僕と君はキッチンに立って簡単な昼食を作っていた。僕はレトルトカレーを鍋で温め、君は電子レンジで温めたご飯をお皿によそっていた。「それにしても、どうしていつも君は僕の入院生活の話なんて聞きたがるわけ?」
「長期入院生活中は何をすればいいかの参考までに」
「君は通院だろ?」
「今のところはね」君は悲観するでもなく、そう言う。「ねえ」
「何?」
「私の病気が治る確率って、どのくらいか知ってる?」
「100%だよ」
「嘘ばっかり」
「僕は嘘つきなんだよ」
「知ってる」悪戯っぽく君は言い、僕の胸を人差し指でつつく。「それで、入院中は何をしていたの?」
「本を読んでいた」と僕は言う。
「なんて本?」
「タイトルは忘れたな」
「内容は?」
「全然」僕はにっと笑い、君は呆れたように溜息をついた。
本当のことを言えば、入院当時僕が読んでいたのは、友人が僕と恋人のために持ってきてくれた、僕自身が過去に書いた日記だった。どうやら僕は自分が予想していたよりもずっとずっとマメな性格だったらしく、つまらない日記を長々と書いていたのだ。それを僕は熱心に読んだ。謙遜なクリスチャンが聖書を読むみたいに。必要なときには、アンダーラインを引き、重要そうな箇所は何度も読み直した。五年分の日記は二週間で全て読んだ。