このかけがえのない世界へ2-1
辺りはまだ昼だと言うのに暗かった。
四方八方、見たこともない巨木が生え、上の方からは何か蔓性の植物らしいものがぶら下がっていた。
「うーむ、困った」
黒いコートを着て左目に黒い眼帯をつけた若い人が立ち止まった。
「完全に迷った」
眼帯の人は助けを求めるように隣りにいる小さい丸い眼鏡をかけた少女に目をやったが、少女は首を横に振った。
「こんなところで野宿は嫌だし……とりあえず歩こうか、アル」
アルと呼ばれた少女は頷き、そして2人はまた道なき道を歩き始めた。
今日、一体何度拭ったであろう頬の汗が流れるのを無視して夢中で歩き進んでいた眼帯の人とアルの目の前に突然開けた空間が現われた。
見ると、いくつかの木造の家が建ち並んでいる小さな村がそこにはあった。
「どうやら野宿する必要はなくなったらしい」
嬉しそうに眼帯の人がそう言うと、向こうの方から若い背の高い女の人が近付いてきた。
とても清楚な身なりの彼女は間違いなく美女であった。
「これは驚いたわ。こんな村に旅人が来るなんて」
「すみませんが、少し休ましてもらえませんか」
眼帯の人が言って、
「冷たい飲み物も」
アルが付け足した。
「まぁ。分かりました。こちらへどうぞ」
大きな家の中へ入るとそこは外と違って涼しかった。
清潔感に溢れた応接室は立派なもので家の造りも他の家とは違う豪勢な造りになっていた。
「立派なお家ですね」
冷たい水を一気に飲み干した眼帯の人は向かいの席に座っている女の人を見た。
「まぁ私の夫は一応村長をやってますから」
「一応、とは酷いね」
照れて答える彼女の後ろから野太い声が聞こえたかと思うと、30代くらいの男性が出てきた。
「あら、あなた。帰ってらしたのね」
「あぁ、ただいま。そしてようこそ我が村へ、旅人さん」
男は人懐っこい笑みを浮かべた。