このかけがえのない世界へ2-3
「スープは嫌いなのかい?」
「えぇ、まぁ、…はい」
「そう…それは残念だ」
眼帯の人の分を男が飲み干した頃、次の料理が並べられた。
遠くから見ると、パエリアっぽい食べ物はもちろんパエリアではなかった。
パエリアで言うところの黄色のご飯が米粒とほぼ同じくらいの何千匹という薄黄色のウジ虫に変わり、具のところが親指大のよく太った数匹の芋虫になっていた。
もちろん、すべて生きている。
「どうだい? とても新鮮でジューシーだよ」
眼帯の人の目の前で男が料理というそれを食べている。
自分の皿に目を移すと、上に乗っていた芋虫が、ウジ虫が蠢きひしめき合っている山の上を転がり落ち、皿の外へ脱出していた。一緒に落ちた数百匹のウジ虫と共に。
横目でアルを見ると、流石のアルも残していたが、それでも半分以上は食べていた。
アルは不思議そうな顔をして、フォークで芋虫を刺していた。気味が悪いくらいに白い体が、全く動かなくなり緑色の液体で染まるまで何度も。可愛らしい口の周りや小さい丸い眼鏡にたくさんのウジ虫を付けて。
「これも無理みたいだね…」
男は心底残念そうな表情を浮かべた。
「…すみません」
「ま、そんなに落ち込まずに。
誰にでも好き嫌いはあるものだし。それに次はいよいよメインディッシュだ!」
そしてメインディッシュが運ばれた。
それは…何かの肉だろうか。大きな骨付きのスペアリブのようなものやステーキ、ホルモン焼きのようなものが並べられた。それもテーブルが一杯になるくらいかなりの量だ。
「今度はどうかな? 食べられそうかな?」
眼帯の人はちょっと嬉しそうな顔で、
「大変申し訳ありませんが、私は菜食主義なもので…」
と言った。
「そうか…、ま、仕方ないさ」
残念そうな表情を見せたのもつかの間、その後はお手伝いさんやコックさんたちも交えてみんなで大量の肉料理を和気藹々と食べた。
アルは右手にフォークを持ってステーキを食べながら、左手には骨付き肉を持って豪快にかぶりついていた。
眼帯の人はそんな様子を出されたコーヒーを飲みながら優しい目で見ていた。
今度は普通のコーヒーだった。
「いやぁ、楽しい!
実に楽しいよ、旅人さん!
こんなに楽しいのは久しぶりだ!」
男もアルのように豪快に食べながら、例の人懐っこい笑みで話しかけてきた。
「そうですね。大人数で食事をするのは楽しいですね」
「どうかな、旅人さんも」
小皿にステーキを一切れ取り分けて、男は眼帯の人の前に置いた。