光の風〈決意篇〉-3
「今の守麗王は玲蘭華だ。」
それも紛れもない事実、カルサは現状を淡々と口にしているだけだった。
「貴方が冷静に物を言えるようになったのは…時の流れを感じさせますね。」
テスタの声が心地よくカルサの中に響いていく。人は過去を背負っていくものだが、一体どれほどの月日を背負い続けてきただろう。
「テスタでも時間の流れを感じるのか?」
少し疑うように笑ってみせた。
テスタは様々な次元、世界、国への扉を集めたここ、界の扉の番人。無数の時間の中をずっと生き続け、過去も現在も何通りもの時間を過ごしてきた。気が遠くなるような無数の時間に囲まれ、時の流れの感覚がなくなったと以前テスタがカルサに話していたのをカルサは覚えていたのだ。
「ときどき顔を見せる貴方の姿の成長が時の流れを知らせてくれます。」
太古の時代、まだカルサトルナスであった頃から度々テスタの所に遊びにいっていた。オフカルスの宮殿内にある部屋、それは限られたものしか入れない場所に最初の扉であるオフカルスの界の扉があった。
あの頃からテスタは年を取っておらず、何の変化もない。
「扉も増えたな。それでも時間が分かるんじゃないのか?」
「そうですね。」
穏やかで落ち着いた物言いはカルサの気持ちを落ち着かせるのに効果的だった。だからだろう、いろんな事を思い出して仕方がない。
テスタはカルサの周りにいた大人の一人だったから。
「テスタ、ありがとう。」
「何がでしょう?」
「日向を預かってくれた事、感謝している。」
真剣な表情でテスタと向き合った。それは本当に、心からの感謝を表している。テスタの両耳を飾る長い銀のピアスが小さく揺れた。
「いいですか?カルサトルナス。貴方が今思っている事を日向が知らないように、人の本心というのは当の本人にしか分かりません。」
まるで子供を諭すように、声を低く、ゆっくりとテスタは言葉を綴った。
「玲蘭華の思いも誰も分からないんです。」
それが何を意味しているのかカルサには嫌なくらい伝わっていた。眉をひそめ、厳しい表情を浮かべる。
「それは向こうも同じだ。オレの気持ちはあいつには分からない。」
この言葉の深さもテスタには痛いほど伝わっていた。
歩み寄る、寄らないの問題ではない。過去の亀裂は塞がりようもなかった。
カルサの中で理解と感情を超えたところに玲蘭華は位置していたから。それはひどく切ないものだとテスタは知っている。
「貴方は皇子ですか?それとも…雷神ですか?」
過去を生きていくのか、それとも今を生きていくのか。例え目指すものが変わらなくても、カルサには持たなければいけない覚悟であり、境界線だった。
「どちらも、だ。」
首を横に振って微笑んだ。