光の風〈決意篇〉-15
「テスタ様。貴方様の思いを私にお預け下さいませ。」
誰もが圭の言葉に魅せられた。圭の肩に手をかけてテスタは頭を近付ける。
「ありがとう、お願いしますね。」
二人の姿に全員が釘づけになっていた。二人を包む高貴な空気は太古の世界を思わせる。
やがて顔を上げた圭はカルサと向き合った。
「私の目的はシャーレスタンの記憶に絡み付いた太古の因縁を終わらせる事。」
カルサは頷いた。
「そして、あの子達を救う事。」
圭の視線はカルサからブレない。この発言はカルサの目的を邪魔することにもなる、それを分かっていて圭は発言した。千羅達が身構えているのを気配で感じる。
「それは私の願いでもあります。」
テスタが告げる。カルサは睨み付けるように視線をテスタに向けた。相変わらず穏やかな笑顔のまま、テスタは表情を変えない。
「貴方の邪魔はしないわ、カルサ。」
圭の声に再び意識を戻らされる。
「私は私の思いを貫きたいだけ。ただ見届けたいの。」
一歩踏み出し、カルサとの距離を近付けた。ゆっくりと手を差し出し握手を求める。
「私も一緒に行かせて。」
差し出された手は宙に浮いたまま求めていた。まっすぐ向けられた眼差しが答えを求めている。
カルサは何も応えず、ただ圭の目を見ていた。目を合わす何か探りを入れているのかもしれない。
「見届ける事が守る事になるとは思えない。邪魔をするような事があれば斬るぞ。」
「いいわ。でも傍にいる事が救いになる事だってあるの。」
私はそう信じたい、圭はそう続けた。カルサの表情は厳しいまま何も変わらない。
「好きにしろ。」
カルサは圭の手を取らなかった。差し出した手をゆっくりと下ろし圭は微笑む。
「貴方の決意を揺るがすような事を言ってごめんなさい。」
そう言って圭は次に譲るようにカルサの後ろへと回った。眉間に皺が寄る、苦々しい表情を浮かべきつく目を閉じた。
今にも大きなため息が聞こえてきそうな姿に、マチェリラは一歩を踏み出す。
その勢いは圭とは対照的で、ずんずんと前に進んでいった。あまりの迫力に閉じていたカルサの目も開けてしまう。マチェリラは顔を俯かせたままカルサの前で足を止めた。
まっすぐ下におろされた手は強く握りしめられていた。
「私はっシャーレ…っ圭みたいに大人じゃないからっ…救いたいとか守りたいなんて思わない。」
カルサの胸辺りに視線を落としてマチェリラは叫んだ。肩に力が入っている、彼女の勇気が目に見えて分かった。
「あの事件から今まで、私は途方も無い時間を生きてきた。言葉にできない孤独や不安をずっと感じて、消せない記憶に縛られてきたの。恨む気持ちの方が強いわ。」
マチェリラの言葉にカルサは頷いた。誰かが以前言ったようにマチェリラと自分は似ているのかもしれない。きっと同じような気持ちで今まで生きてきたのだと心の中で納得した。