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『春』
【ファンタジー 恋愛小説】

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『春』-4

朝…
ものすごい風の音で、彼女は目が覚めた。
春の嵐だ。

「…んっ…」
ゆっくりと意識を覚醒させ、身じろぎしようとしたが…
体が、固定されていることに気付いた。
「ぇ…何これ…」

「さくら、おはよう。
今日は強風だから、倒れないように、ね…?
あいつにやられて、身体ボロボロなんだろ?」

「だからって…こんな、縛る、だなんて…」

「心配されてるんだから、いいじゃないか。
それにほら、皆に見られたいのなら、しゃんと立っていなきゃ、ね?」

甘い言葉を吐きながらも、彼は冷たい雨の視線を送っていた。
愛するひとの前で自らは体を縛られ、身動きもとれず、ただひたすらに見られるだけ。
彼女はもう、完全に濡れそぼっていた。

「お願い…もう…」
なんとか声を出すが、吹いてきた風に、細い声はあっさりと流されてしまった。

「さくら、お前はまだ完全ではない。
どうされたい?
今回はもう、これで止めるか?
そうするのは簡単だぞ?
今の弱った身体では、その方が良いかもしれない…」

「…!
いや…っ!嫌です…!
お願い、私を咲かせて…!
このまま終わりなんて嫌…!
あなたの手で、美しくなりたいのぉっ…」
必死に抗弁する。
両手を揺すって悶える姿は、本当に儚く美しいものだった。

「わかったよ、仕方の無いひとだ…。
でもこれだけは教えてくれ。
あいつに、何をされた?」

ぎくっと体を強ばらせた彼女は、少しの間ためらった後、一際強く固定された左腕に目をやった。
「…小指。」
それだけ言うと、辛そうに目を伏せた。

彼は、疾風のごとく歩み寄ると、縄をつかんで左腕を引いた。
「「…―っ!」」
彼女は痛みで、彼はそれをされた時の彼女の痛みを思って、息を呑んだ。
小指は、ぽっきりと折られていた。
彼女の薄紅色の爪は、今や19しかないのだった。

「…なんてことだ」

彼は完全に激情にかられ、その勢いのままで、彼女を抱いた。
春の嵐の勢いを以て、それは晩まで続いた。


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