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『春』
【ファンタジー 恋愛小説】

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『春』-3

彼女の花は、美しく咲き開いていた。
しかし先程から、彼女の様子がおかしい。
彼が、繋がる、と言った時からだ。
彼が指や舌を伸ばしても、彼女が自分の意思で、すっ、と核心からずらしている。
目も合わせてくれない。
「さくら、―…どうした?」
情けないことに、聞かないと分からなかった。

瞳に涙をいっぱいに溜めて、彼女が顔をあげた。
「――浮気を、しました。」

壮絶な表情(かお)で、彼女は告げた。
「年が明けて、少しした頃です。
私…寂しかったの。
ぬくもりが欲しくて…あるひとを誘った。
そのひとは、見ているととても暖かそうで…。

でも…ダメだった。
うぅん、ダメどころじゃない、彼は、ひどかった…。
ものすごく冷たいひとで…私はぼろぼろにされたの。
私、汚れてしまった。」
彼女の告白に、彼は凪ぎのように動かなくなってしまった。


そのまま夜になり、冷たい雨が降りはじめた。
2人は、互いに背を向けて眠っている。
―いや、眠ってなどいやしない。
彼は、嫉妬に身を焦がし、彼女は寒さに震えていた。

「…なぁ?」
しとしと雨音がするなかに、彼のつぶやくほどの声が聞こえた。
「…はぃ」
彼女はそれに、囁き声で応えた。

「そいつ、もしかして…名前、ユキ、とか言ったか…?
あいつなのか…?
あの、いつも白い…?」
びくり、と彼女は身体を揺らした。
その振動は、彼に伝わる。
「…そうか」
ため息のように了解したことを告げた。

「…彼、あの時は、ふわふわしていたの。
暖かそうで、彼に包まれたくなってしまった…。
それが、間違いだったの。
あたしが、馬鹿だっただけなの…」
涙声で、彼女は懺悔した。
苦しいほどの後悔が、胸をきしませる。

「わかった、もう言うな…
わかったから。
…もう寝ろ」

「いや…寒い…寒いの。
…助けて。
朝まで、抱いていて…」

彼に背を向けたまま、両手で我が身を掻き抱いて、彼女は震えていた。
彼は身を起こし、後ろから抱きしめてやる。
そのうち、ふ、と安心したように力を抜き、彼女は眠りに落ちた。
しかし…彼の方は眠れそうにはなかった。

「あんな…あんなヤツに身を任せて…心をずたずたにされるなんて。
俺が癒してやる他ないだろう?
困ったひとだ、俺にこんな想いをさせて、一人で先に寝てしまうなんて」


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