【イムラヴァ:第一部】二章:コルデン城のルウェレ-8
別の日、アランは新たな発見をした。城のそこいら中を突っつき回すアランにかかれば、屋根の上の鳥の糞一つ隠れたままでは居られないのである。その日、アランが見つけたのは、まさしくその糞を残していく張本人だった。ウィリアムには、鐘突塔の鐘に居たる道のりは、この間の屋根裏部屋に行く時よりずっと楽に思えた。
「ほら」
そこには、木の枝を編んで作られた鳥の巣があった。巣には敷き詰められた樹皮の他、どこで見つけてきたのか、布きれや藁もたくさん混ざっている。なにより彼らを感動させたのは、巣の中にある3つの卵だ。
「わあ……」感嘆するウィリアムと、卵の両方を、アランは誇らしげに見つめた。
「な?すごいだろ」ウィリアムはうなずいた。
「でも、何の卵だろう?」
二人は、だいぶ遠くから卵を眺めていた。
「よくわからない。母鳥が卵を暖めているところには、まだ出くわしてないんだよ」
卵は白く、片手の中にすっぽりと収まってしまいそうな大きさだ。それが、お互いに寄り添うように巣の中心に並んでいた。
あっと声を上げ、アランが遠くの空にを指さした。小さな黒い点が、森の上を旋回している。
「あれが親鳥かな」
「多分そうだ。僕らが居るから、怖がって巣に帰れないんだ」
「行こう」
二人は声を潜めて、見張り台の陰に身を隠した。それから、来た時よりも少し要領よく、屋根をつたって中庭に降りた。城には人が大勢いるし、することに事欠くほど暇なわけでもないが、毎年が同じ事の繰り返しだ。森の野鳥が城に巣を作った程度の出来事でも、彼らを興奮させるには十分だった。おまけに、この間の本のことがあってから、ここのところ、二人は鳥に関してとても敏感になっていた。
「いつ頃孵るんだろう」ウィリアムが言うと、アランも、頭に浮かんだことを一刻も早く実行に移したくて仕方がない時のように、つっかえながら答えた。
「わからない。でもさ、イアンなら、知ってるかもな」
二人は顔を見合わせ、我先にと厩まで走っていった。老イアンは、アランがやってくる前からコルデン城に住んでいた厩番で、ヴァーナム・マクスラスの乳母の息子だ。彼は、家畜が病気にかかったり、仔を孕んだりするとすぐに呼ばれた。それに、本物の医者に診てもらう余裕のない雑用婦や下働きも、具合が悪くなれば彼を頼って、厩へと足を運ぶ。コルデン城で一番のものしりは老イアンだと誰もが言うだろう。