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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:第一部】二章:コルデン城のルウェレ-5

「ここなら、何も屋根の上をつたってこなくたって来られたじゃないか!」高所の恐怖にまだ震えが収まらない心臓をかばいつつ、落とした声でウィリアムが言った。

「この塔に来るには、領主様の書斎の前を通って来なきゃならないんだぞ、万が一見つかったら何て言い訳するんだよ。おまけに」気持ちがいいほど勝ち誇った顔で、アランは言った。「ここに続く扉には鍵がかかってるし」

「でも……」アランは言いつのろうとするウィリアムを遮った。

「いいだろ、ここまでちゃんと来られたんだから。終わりよければなんとやら、だ」悪たれそのものの笑顔に、ウィリアムはため息をついて反論をあきらめた。たしかに、あの屋根渡りを乗り越えた今となっては、とてつもない冒険をしたような気がして、誇らしさすら感じる。胃も、再び自分の居場所に落ち着いていた。

「で、何を見つけたの」アランは、屋根の上につきだした、小さな屋根付きの小窓を指さして、

「あそこから中に入る」と断言した。

「あれは、誰の部屋なの?」勝手に誰かの部屋に忍び込む事だってやりかねないと、ウィリアムが思っていることは明らかだった。アランはふふんと鼻を鳴らした。

「今は誰も使ってないよ。昨日、審問官のやつらが来てる間ずっとあそこにいたんだけど……まぁ、とにかく来いって」アランは上機嫌だった。まるで宝物を掘り当てたような顔をしている。未曾有の危険を冒して、やっと小窓のところまで来ると、そこは本当に、今は使われていない屋根裏部屋だった。いくつか家具が残ってはいるものの、日用品の類は何も残されては居ない。はらわたを抜かれた死体のような、不気味な光景だ。部屋の中は埃っぽく、かび臭くて、アランが床の上に飛び降りると埃と匂いがうわっと舞い上がった。すでに小さな足跡が部屋中に残っている。この部屋にいる間、アランは退屈しなかったに違いない。使われなくなった家具から、布団のない台だけの寝台にまで、アランの探検の痕跡が残っている。つまり、異端者狩りの間中、アランはこの部屋に一人きりで居たと言うことだ。ウィリアムは、その間自分が享受していた気楽な――屋根の上を歩かされたり、森の大穴に落ちる不安のない――生活を思い、少しだけ胸が痛んだ。窓枠からそっと降りると、当の本人はウィリアムの心痛に全く頓着せず、部屋の向こうから、大きな衣装箱を引きずってやってきた。

「見てみろよ、これ!」ウィリアムは、窓辺に立ったまま1歩も動かずに、虫に食われて穴だらけの衣装箱を疑わしそうに見た。中から何が飛び出して来るやらわかったものではない。特に、アランが喜びに満ちあふれたこんな表情をしている時には。「蛙?コウモリ?」

「何だよ、脅かすつもりはないって」アランはふてくされて頬をふくらませた。「見たくないならいいよ、窓から帰んな」

「そう言うことを言える立場?」ウィリアムはおそるおそる箱の方に近づきながら強がった。「言っておくけど、何が出たって驚かないからね」

「勝手に言ってな、臆病者」アランは笑いながらいった。ウィリアムが箱のすぐ側まで来ると、アランは勢いよく箱のふたを開けた。再び、勢いよく埃が舞い上がる。ひとしきり二人でむせた後、ようやく晴れた視界に飛び込んだものは……

「うわ、何これ」ウィリアムは、思わず目を輝かせた。「本じゃない!」

「どうだい」アランは得意げに腕を組んだ。「しかも、教会が見つけたらその場で燃やされちまうような宝物だぜ」

「中、見てもいい?」ウィリアムが声をうわずらせて聞いた。

「もちろん。僕もまだ見てないんだ」そう言いながら、アランはウィリアムの隣に身体を動かして、一緒に本をのぞき込んだ。「二人で見ようと思ってさ」

 ウィリアムは、友人の心遣いに胸を躍らせた。先ほどまでの不信感は綺麗に消え去っていた。


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