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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:第一部】二章:コルデン城のルウェレ-4

 ――この馬に乗れるか、ウィリー坊や?

 ――ウィリーウィリー坊や、恐いのか?

 だからこそ、彼は義兄を慕っていた。

普通、大きな城に住む領主の元には、いろいろな家から修行のために子供が預けられる。彼らが親元を離れるのは7、8歳の頃というのが普通だ。領主の小姓として剣や銃の扱いを学び、乗馬を習う。そして、一人前の男、一人前の戦士として認められる頃に、領主に忠誠を誓い、親の元へ帰り、やがてその家督を継ぐのだ。コルデン城には、今も十人以上の子供が方々からやってきている。しかしアランだけは他の少年達と違って、4歳の頃からここにいた。彼には身寄りが無いのだ。

 もうすぐ13の誕生日を迎えるアランは、早くも剣術の稽古や乗馬の稽古で、戦士としての素質を見せている。継ぐ家がないので、やがては独り立ちし、国の軍隊に仕えるか、法教会の修道騎士として各地を巡る旅に出ることになる――もし、彼がそれを望めば、だが。ここにずっといればいいではないかと、ウィリアムは再三にわたってアランを説得したが、今日まで、彼は首を縦に振ってはいない。それに、これからもそうなのだろう。外の世界に対してアランが抱く憧れは、狂信的と言ってもいいほどだ。裏を返せば、この城での生活は、アランにとってはそれほど魅力的ではないと言うことなのだろう。

 中庭に面した入り口にある広間の奥に、塔へと続く階段がある。普段使わないその塔は、見張りのためのものだ。今は平時だから、そこに見張りが立つことは無い。彼は長い螺旋階段を上りきると、見張り台からそっと身を乗り出した。

「アラン?」そう声をかけるつもりだったのだが、彼は言葉を飲み込んだ。

 アランは彼に背を向けて、一番高い主塔の屋根の頂上に立っていた、右手に旗柱を握っている。そこからは、城を取り巻く景色が一望できた。なだらかな丘の上に立っているコルデン城と、城の周囲にある集落を守るように建つ城壁、それを取り巻いて広がる森。さらにその向こうには、地平線へと続く一本の道以外には何もない、ヒースの原が見えるばかりだった。アランが見ていたのは、あの一本道だろう。景色を二分してくっきりと浮かび上がる、どこまで続いているかもわからないあの道。穏やかな風に、アランの巻き毛がなびき、右手で握った旗柱には、鶫が描かれたマクスラス家の紋章旗が棚引いていた。

 ウィリアムはこの時悟った。アラン・ルウェレンが、この場所にとどまることは絶対にないのだろうと。彼には翼が生えている。その翼が今はまだ未熟で、風をつかむことが出来ないだけだ。時がくれば、彼はこの場所を去る。そして、もっと広い世界へと飛んでいくだろう。アランが彼の姿に気づいて振り向いた。

「来たか、ビリー!」アランは、さんさんと輝く日の光を宿し、まぶしい笑みを浮かべた。「さすがだな」

 ウィリアムがゆっくりと、苔だらけの滑りやすい屋根に足をおろす間に、アランは彼の元へと歩いてきた。まるで、地面の上を歩くのも、馬が手のひらほどの大きさに見えるほど高い屋根の上を歩くのも同じだと言うように。ウィリアムがようやく両足を屋根につけると、一息つく暇もなく「こっちだよ」と彼を案内した。ウィリアムは、彼が何を見つけたのか質問するどころではなかった。屋根の縁を危なっかしげにつたい、塔の見張り台を渡った。胃がのど元のすぐ下で、外に飛び出す機会をうかがっている。風のない日だとは言え、間違って足を滑らせれば命はない。ウィリアムは小さな頃、祭りにやってきたチグナラの芸を見たことがある。その時は、剣を飲み込むその芸を、自分がやることになったらどんなに恐ろしいだろうと思ったが、今彼が味わっている恐怖に比べたら、剣の一本や二本、簡単に飲み込んでやろうと思える。一、二度危なく足を滑らせそうになったものの、二人はようやく目的地にたどり着いた。隣には警鐘のつるされた鐘楼がある。二人が立っていたのは、数ある見張り塔のうちの一つだった。もちろん、その塔には階下へ続く階段がある。


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