教師の情事（２）-2
一方佐和子と畑中は職員更衣室で着替えるともう誰もいない職員室に入った。
最初に切り出してきたのは佐和子だった。
「畑中先生、実は相談が・・・。」
「どうしたんですか、篠原先生？」
「実はS中学からの卒業した生徒の件でお話があります。」
S中学とは正之が卒業した中学校だった。
「S中学卒業した生徒がどうしたんですか？」
「S中学の教師が徹底した管理教育による体罰やら罵倒で心に傷を持っている生徒が
結構いるのがわかったんです。」
「S中学か・・・。あそこはちょっと問題のある教師ばっかりですからね。
体罰が教育だと思っている教師だらけです。その生徒の体罰が嫌になって登校拒否をしてしまった生徒もいるとか。」
「でしょうね。暴力教師のいる学校が嫌という子もいますからね。」
「私の大学時代の友人がそこの教師をしていて、あまりの管理教育にたまりかねて学校に
意見をしたのですが、受け入れられず転勤させられたとか。」
「て、転勤させられた！？それ報復人事じゃないですか！」
「ええ。だから教師達は仕方なく体罰をしているという面もあるみたいですね。」
そんな事が実際にあるとは・・・。佐和子はとても信じがたかった。
「確かうちのクラスでは野村と篠崎が卒業生ですね。」
篠崎沙希はS中学卒業の生徒でとてもおとなしく、時々何かに怯えているようにも見えた。
佐和子は沙希にも接してはいたが正之とは違い、なかなか話してくれなかった。
補習に呼び出そうとしたが家族旅行で断念した経緯もあった。
「しかしどうやって心に傷を持っている生徒を知ることが出来たのですか？」
「野村君から聞きました。」
「野村か・・・。部活では明るく今度の試合には出てもらうことにしたんですよ。
よく篠原先生に話してくれましたね。」
「野村君が相談室で話してくれました。説得のかいがありました。」
まさかマンションの自室で話したなんて言えるわけがない。
「そこでうちのクラスだけでもいいので生徒に中学時代にどんな嫌なことがあったのか
調べるためにアンケートを取りたいと思っているのですが。」
「それはいいですが・・・。でも書いてくれるかな？それにS中学がそれを知ったら
来年生徒を薦めなくなる可能性だってあります。」
「畑中先生は教師はただの公務員だとお思いですか？確かに私たちの肩書きは
M県公務員という地方公務員です。でもそれ以前に私たちは教師です。」
「篠原先生・・・。」
「彼等には制服を着て学校に来る最後の3年なんです。社会に出る前に学校で
楽しい思いをさせて上げたいんです。学校はただ勉学を学ばせるためのあるのではない、
それが私の持論です。」
畑中は腕を組んで少し考えると意を決したように答えた。
「よし、やってみよう。」
「ありがとうございます。アンケートは私が今日帰ったら作成します。」
「そうですか。ではその件については篠原先生に任せます。」
佐和子は畑中を心の底から信頼していた。畑中は同僚教師から遊び人だ、プレーボーイだと
陰口を叩かれていた。確かに畑中は休日にはM県の隣の東京に出てナンパをしたり、
合コンに出席したりとしていたが校では熱血教師そのものだった。
何年か前に女生徒が社会人の男と付き合っていて妊娠した際には、その女生徒の
退学が職員会議で提議されるとこれに猛反対した。また女生徒の堕胎にも反対し、
彼女を一時休学させて出産させ、さらに社会人の男とも頻繁に会い卒業後
この二人は結婚した。その時仲人を務めたのは畑中だった。
一歩間違えればよくて転勤、悪ければ依願退職になりかねない状況の中で
畑中は自らを犠牲にしてまでも生徒を守ろうとした。
なぜ私生活ではそんなに女性にだらしなさそうに見えるのかと佐和子が尋ねると
「ただのストレス解消です。」と答えた。
また畑中の信念なのか、生徒や同僚の教師には手を出そうとしなかった。
それは佐和子についても同じだった。こういう男が教師にふさわしいのかも知れないと思っていた。