いけないあそび-9
「俺は一回ヤッたらって言ったんだけど」
志久野は言いながら、灰田の制服のボタンに手をかけていた。
「!?」
「何、お前もしかしてこの前のを『一回』としてカウントしてるわけ? 冗談、あの時は触りっこだけだったろ」
「シクヤ……?」
「俺は折角の『一回』をいつにしようか悩んでたとこなんだけど」
それから志久野は口許を更に吊り上げ、灰田の唇に親指を這わせた。
「どうやら『一回』だけじゃなくても、良さそうだな?」
言った志久野の言葉と表情に、思わず灰田は顔を赤くする。
「んなの……聞いてねえよ」
灰田は絞り出すように言う。
「んじゃ、お前の捉え方が悪かったってことで」
「なら! どうしていつもみたいに俺に構ってこなかったんだ」
最後の方は言葉を濁すように尻すぼみになる。
構ってほしかったの? と嬉しそうに首を傾げる志久野からは顔を逸らし、灰田は軽く舌打ちをした。
志久野はちらりと書庫の出入り口の方を一瞥し、肩を竦める。
「あの後――お前と別れたところを先輩に見られたんだよね」
彼は悪戯っぽく舌を出して言う。
「そういやあの日先輩と約束してたことを俺は思い出してさ。俺に無視(シカト)されたのが相当腹立ってたみたいで、ハイダと何やってたんだってしきりに聞いてくるわけだ」
「相手がこの俺だよ? 何やってたかって、先輩には大体見当ついてんだ」
「ま、あの人も独占欲強い人だからさ。俺のせいでヒデがとばっちり受けないとも限らないじゃん?」
おそらく例の上級生は灰田に志久野を寝とられたと勘違いして怒っている。自分と灰田が仲よさげに話しているのを見られでもしたら、灰田に怒りの矛先が向けられるかもしれないと志久野は言った。
「それで……」
灰田はバツが悪そうに再び志久野から視線を逸らした。
「でも、先輩との関係も今日で終わったし」
「え?」
どういうことだと訊く灰田に、志久野は笑った。
「『いつも同じでいい加減に飽きた。次からは俺があんたを開発してあげるから』ってね」
楽しげだが、どこか影のある妖しい笑みを浮かべたまま志久野は鞄に手を伸ばした。
そして取り出したのは、透明な液体の入ったボトル。
「これ見せてさ、ビビる先輩に『怖くない、最初は痛いかもしれないけど気持ち良くなるよ』って言ってあげたわけだ」
そうしたら、どうしたと思う? 志久野は笑いを堪えながら灰田に訊いた。
首を傾げる灰田に、志久野は言う。
「お前との関係は今日で終わりだってさ」
その言葉に、志久野も灰田も思わず吹き出した。
「だから」
しかしそんな和やかな雰囲気も一瞬。妖しげに、志久野の手が灰田の喉を撫でる。
「今日からお前が俺の相手」