卒業-1
『graduation〜卒業〜』
先輩たちの卒業式が終わり、自宅の二階にある僕の部屋でのんびりしていた。卒業式ってなんであんなに長いんだろう。と思案をめぐらせていると、ドタドタと階段を上がる音が聞こえてくる。
おそらく妹だろう。そう考えていると、勢いよく扉が開かれた。
「おにぃ、いつか帰ってきてたの?」
黒いショートカットの髪にセーラー服にミニスカートを着ている。艶めかしい生足が眩しい。いやいや、妹相手に欲情するなんて。しっかりしろ。
僕達の高校――地雷火字高校はブレザーを制服と決めているのだが、妹だけはセーラー服を着ているのだ。高校側は初めから許可をしているらしい。どんだけ自由な学校なんだ……。
「一時間ぐらい前かな。なんか用だった?」
「うん。プリンを買ってきて貰おうかなって」
「自分で買えよ!」
「おにぃが買ってきたプリンが美味しいんだもん」
笑顔で妹は言う。妹はブラコンだ、とよく周りから言われるらしい。僕の気持ちとしては、そうそうに僕から卒業して欲しい。
「あ、そうそう」
妹は思い出したように言った。
「今日はおにぃにお知らせしたい事があります!」
警察官のように敬礼をする。なんだろう。
「私――千葉行方(ちばゆくえ)はおにぃから卒業して、花鳥院(かちょういん)先輩にこれから告白してきます!」
やっと僕からの卒業らしい。それは嬉しかった。だが、気になったのはそれじゃない。
「ごめん。行方、何て言った?」
「だからぁ、これから花鳥院先輩に告白するって言ったの!」
行方から見た花鳥院先輩は花鳥院風月(かちょういんかざつき)しかいない。
「マジで?」
「うん。マジで」
あの男――風月だけはやめてほしかった。
「風月のどこが良いの? ウザいだけだよ?」
「そのウザさが良いの! おにぃはその良さがわかんないかなぁ」
きゃー、と恥ずかしそうに俯いて言う。風月の良さは全くわからない。ウザさに良さを求めても意味なんか無いと思うけど……。
「わかんないよ。ただ、風月だけはやめとけ」
「ヤダ! そこだけは絶対に譲らないもん」
そう言い捨て、僕の部屋を出て階段を降りた。ま、まさかこのまま風月の家に行くのだろうか……?
携帯を取り出し、風月に電話する。行方を追い返してもらわねば。数コールをしたのち、風月が電話に出る。