同窓会〜揺るぎない想い編〜-6
柏木は大学を卒業して数年後に結婚した…と風の便りに聞いていた。
相手が12才年上の医師だと知っても驚きはしなかったけど、柏木がもう手の届かないところに行ったと思うと無性に哀しかった。
それでも、母子2人の淋しい子供時代を送った柏木には、心から幸せになって欲しいと願ったものだ。
今夜は同窓会とは言え、願ってもない柏木との再会なのだから、せめて雰囲気だけでも明るいものにしたい。
柏木が出席すると知った俺は、何が何でもここに来る為に、昨夜遅くまで残業しながらそんなことを考えていた。
同級生と談笑する柏木の笑顔はあの頃よりずっと穏やかで、まわりの空気をやわらかなものに変えてしまうような、不思議な力さえ感じる。
ともすれば何もかもが順調で、彼女は輝くような幸せの中にいるように見えた。
でも俺は、一瞬見せた柏木の瞳の陰りを見逃さない。
次々と押し寄せる不安の波に、本当は彼女がさらわれそうになっているのではないか?
なぜなら…時折俯く柏木の瞳の奥には、公園で仔猫を抱いていた時の、あの哀しい色が映っていたから。
しばらくそんな柏木から目が離せないまま、他愛のない話をしている時だった。
柏木が突然席を立ち、店を飛び出した。
俺は一瞬追うべきか迷い、彼女の頼りないうしろ姿を見つめる。
柏木にはきっと…自分にしか手に負えない種類の悩みがあるのだろう。
そこに突然現われた俺が、彼女の今に無断で立ち入ることが、果たして正しいことなのかわからない。
でも気がつくと、俺は柏木を追って店の外に出ていて、あげくの果てに、泣きじゃくる彼女を自分の腕に包んでいた。
その時の俺に、彼女を救う確実な手立てなんてなかったけれど、とにかく夢中で彼女を抱きしめた。
たとえ一瞬でもいい、そうすることで柏木の心から不安が消えるなら…と願いながら。
そんな俺の思いなど知る由もない柏木は、俺が酔ってした軽はずみな行動だとたしなめる。
いつだってそうだった…。
柏木にとって俺は居心地のいい同級生で、それ以上距離を縮めようとする俺を彼女はやんやりと…でも頑なに拒んだ。