同窓会〜揺るぎない想い編〜-4
『可哀相だけどさ、最期にお前の手に包まれて逝ったんだから、そいつ幸せだったと思うぜ』
俺は小さく頷いた柏木の手から仔猫を受け取り、葉桜になった桜の木の根元近くに埋めてやった。
『学校行けるか?』
俺が柏木にそう聞くと、柏木は弱々しいがニッコリ笑う。
とても清らかなその笑みに、俺は一瞬にして恋に落ちた。
チャリのうしろに柏木を乗せ、学校までの道を無言で走る。
ずっとこうしていたかったけど、時間を止めることは出来なかったから、せめてゆっくりペダルを漕いだ。
学校に着いてからも、俺達は無口なままだった。
ただでさえ喋らない2人だから、当然と言えば当然なんだけど…。
それでもその時の柏木とは、気持ちが通じ合えていたような気がする。
その証拠に…柏木はそれ以来、ちょくちょく俺に話し掛けてくるようになった。
それは昨日見たテレビの話や好きな音楽の話、慣れてくると、そこに柏木の恋の話も混じったりした。
無口だった柏木は、俺の前で日に日におしゃべりになっていく。
俺はたいていいつも聞き役で、ふんふん頷きながら、彼女の話に耳を傾け続ける。
――と言うよりこの時の俺は、柏木と過ごせるならたとえノロケ話を聞かされようとも、黙って堪える覚悟があった。
実際彼女は、耳を塞ぎたくなるような彼氏との話まで俺に聞かせ、俺をヤキモキさせた訳だけど…。
16の柏木には、その時すでに付き合っている奴がいた。
ソイツは俺らよりずっと年上で、仕事をしていて、車も持っているような大人の男だった。
柏木には父親がいない。
生まれながらに、戸籍には母親の名前しかなかったらしい。
同じく母子家庭で育った俺とは、ほぼ同じような境遇だとわかった。
「だからかな?私…完全なるファザコンなのよ。彼氏って言うより、側にいて安心できる存在が欲しいのかもしれない」
彼氏とうまくいっている時の柏木はそう言って嬉しそうに笑うけど、当然俺はおもしろくない。
決まってその手の話になると、途端に俺は不機嫌になる。
年上のソイツの前で見せる柏木の姿を想像すると、俺の胸は押し潰されそうになったし、俺の知らない柏木をソイツが知っていると思うと、俺の拳は怒りに震えた。
それでも柏木は、ちっともそんなこと気にしなかったけど…。
高校生の俺には、当然ながら金もなきゃ車もない。
あるのは唯一、兄貴のお下がりの原チャリぐらいなもので…。
どう考えたって俺に勝ち目はないし、柏木が望むような付き合いも叶えてやれない。
どうせ柏木と付き合うことが出来ないならと、自暴自棄になっていた頃…。