双子の姉妹。 5-3
***
「せんせ、何やってたの?」
麻琴と話し込んでしまい、逆に琴音をすっかり待たせてしまった。
「ああ、悪い。麻琴と受験のことで話し込んでてな」
「…そう、なんだ」
「なあ琴音、麻琴がどこの大学を受験するか知らないか?」
「……せんせ、まだ知らないんだ」
琴音は困ったような顔でそう言った。
「ああ」
「…じゃあやっぱり、直接訊いたほうがいいと思う」
「…そうか」
よくわからないが、俺は琴音の言葉に素直に頷いた。
「とにかく、待たせて悪かったな。それじゃあやろう」
「……うん」
琴音は困り顔のまま参考書を開いたのだった。
***
「せんせ、私、受かると思う?」
今日の勉強時間が終盤に差し掛かった頃、琴音は唐突にそう言った。
「今のままならきっと受かる。琴音の勉強量は、俺の受験のときと大差ないぞ」
「…じゃあせんせはすごく勉強したんだね。私は今で一杯一杯だもん」
勉強机に突っ伏して言う琴音。
「そんなこと言うなよな。まあ、今になって弱気になっても、今度の模試の結果が嫌でも自信をつけてくれるぞ。琴音はそれだけ頑張ってる」
「……自信、か」
「ああ」
しばらく無言の時間が続いたが、琴音は変わらず突っ伏したまま言った。
「せんせ、一つわがまま言っていい?」
「なんだ?」
「…次の模試で合格ラインを越えたら、私とデートして」
「デート?」
琴音はどんな顔でそう言ったのだろうか。
「うん…私、子どもだから遊園地がいいな」
しかし、その声はひどく大人びていた気がする。
「……わかった。連れてってやるから模試頑張れ」
「…うん!じゃあ今日はもう終わりにしよ?」
急に琴音はいつもの元気な琴音の声でそう言い飛び起きた。
「残りの時間はどうするんだ?」
「せんせへの尋問タイム」
「……はい?」
「あの女の人はせんせの何なの?彼女?友達?」
琴音はいきなりそう言ってまくし立てながら、真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。
このことすっかり忘れてた…
「前に麻琴にも疑われたんだけどな、あいつは高校からの友達で彼女じゃない」
「でも家に二人でいたじゃん」
琴音はぷーっと頬を膨らませる。
「あいつは自分勝手なやつで、あんな風に無理やり家に上がり込むんだよ」
「……信じていいの?」
「ああ、俺を信じろ」
「……うんっ」
少し間はあったが、琴音はニコッと微笑んだ。
「よし」
琴音は麻琴のように拗ねることなく信じてくれた。
よく考えればここまで誤解を解こうとする必要もないんだろうけど。
やはりこの双子の姉妹には後ろめたいことをしたくない。
「せんせ、下に降りよう」
「あ、ああ」
「遊園地、忘れないでね!」
「わかってるよ」
そう言って、琴音の背中を追いかけた。
ふと思う。
琴音のことだから、遊園地デートはほぼ間違いないだろうな、と。