カコミライ (4)今の私-6
「だから、まずは香子ちゃん自身が今の香子ちゃんを好きになってあげなよ」
「……今の私」
「そう、今の香子ちゃん」
視界が滲む。海の輪郭がぼけていく。その姿を目に焼き付けておきたくて、必死に涙を堪える。
「海はちゃんと未来の美嘉さんまで抱き締めなよ」
やっとで絞り出したような声になってしまったけれど、これは本心だった。
海はそれに応えるように手を挙げた。これから、二人はお互いに隠していたことを明かすだろう。海の狼狽える姿が目に浮かぶけど、きっとすぐに二人は笑い合うだろう。
私のなんかいらないかもしれないけれど、太鼓判を押そう。あの二人なら大丈夫。
ショッピング街に入り、もう海の姿は見えなくなった。途端に、張り詰めた糸が切れたように涙が溢れ出して止まらない。
「ふっ、う……」
ショーウインドウに反射するのは、ぐしゃぐしゃの泣き顔。
笑ってみたら、映るのはぎこちない笑顔。無理に笑った所為か、口端はひきつっているし。目元の化粧は落ち掛けている。
やっぱり不細工だなぁって思うけれど、ほんの少しだけ悪くない、そう思えた。
すれ違う人は皆、泣きながら笑う私に驚いた顔をしてる。そんなこと気にせずに、ちゃんと笑顔のままで足を進める。
人の蠢く通りを抜けると、視界が開き、無限の空が広がっていた。冬の鈍い太陽は、私を穏やかに包んでくれる。
大丈夫、私は一歩一歩きちんと進めた。
勿論、今すぐにはまだ無理だから、もう少しだけ時間を頂戴。
兄の部屋を引き払って、父と母に心配を掛けたことを謝ろう。兄の墓参りに行って、墓前ですべてを話そう。海と美嘉さん、二人の幸せを祈ろう。
そうやって、少しずつだけど、前に進もう。
そしたら、私はあなたを好きになれる気がする。
だから、待っていてね。
‘今の私’
end